弁護士はフォーラム・ショッピングと虚偽陳述を行うべきではありません
A.C. No. 4058, 1998年3月12日
法律専門職は、その構成員に最高の基準を要求し、その行動規範の違反を許しません。したがって、司法手続きを軽視し、フォーラム・ショッピングを行い、訴答で露骨な嘘をつく弁護士は、制裁を受けなければなりません。
イントロダクション
弁護士の倫理は、法制度の基盤です。弁護士は、クライアントの権利を擁護するだけでなく、司法の公正さと効率性を維持する義務も負っています。しかし、一部の弁護士は、手続きを悪用し、裁判所を欺く行為に手を染めることがあります。本稿で解説するベンゲット電化協同組合対フローレス弁護士事件は、まさにそのような弁護士の不正行為を浮き彫りにし、弁護士倫理の重要性を改めて認識させるものです。
この事件は、弁護士によるフォーラム・ショッピングと虚偽陳述という二つの重大な不正行為を取り上げています。フローレス弁護士は、不利な判決を覆すために、複数の裁判所に訴訟を提起し、さらに、裁判所に虚偽の陳述を行いました。最高裁判所は、これらの行為を重大な非行とみなし、弁護士資格停止という重い懲戒処分を科しました。
法的背景:フォーラム・ショッピングと弁護士の義務
フォーラム・ショッピングとは、当事者が、有利な判決を得るために、複数の裁判所に同一または関連する訴訟を提起する行為を指します。これは、司法制度の濫用であり、裁判所の資源を浪費し、相手方当事者に不当な負担を強いるものです。フィリピンの法制度では、フォーラム・ショッピングは明確に禁止されており、違反者には懲戒処分が科されることがあります。
弁護士は、裁判所に対して誠実かつ率直でなければなりません。これは、弁護士倫理の基本原則の一つであり、弁護士は、裁判所を欺いたり、誤解させたりするような行為を慎まなければなりません。具体的には、弁護士は、訴訟において真実を述べ、虚偽の陳述を行ってはなりません。また、弁護士は、裁判所の判断を尊重し、その執行を妨げるような行為を行うべきではありません。
弁護士倫理規範は、弁護士が遵守すべき行動基準を定めています。この規範は、弁護士の義務、責任、そして懲戒処分について規定しており、弁護士の専門職としての品位と公正さを維持することを目的としています。弁護士倫理規範の違反は、弁護士資格停止や剥奪などの懲戒処分の対象となります。
本件に関連する弁護士倫理規範の条項としては、特に以下のものが挙げられます。
- 規範10:弁護士は、裁判所に対して誠実、公正、かつ善意をもって臨むべきである。
- 規範12:弁護士は、司法の迅速かつ効率的な運営に協力すべき義務を負う。
これらの規範は、弁護士がフォーラム・ショッピングや虚偽陳述などの不正行為を行うことを明確に禁じています。弁護士は、これらの規範を遵守し、司法制度の健全性を維持するために尽力する義務があります。
事件の経緯:フローレス弁護士の不正行為
本件は、ベンゲット電化協同組合(BENECO)が、フローレス弁護士をフォーラム・ショッピングと虚偽陳述で懲戒請求した事件です。事の発端は、BENECOと一部の理事との間の労働紛争に遡ります。最高裁判所は、BENECO勝訴の判決を下しましたが、理事らは判決の執行を不当に遅らせようとしました。
フローレス弁護士は、理事らの代理人として、まず最高裁判所に判決の明確化を求める申立てを行いましたが、これは却下されました。次に、フローレス弁護士は、バギオ地方裁判所に執行差し止め訴訟を提起しましたが、これも管轄違いを理由に却下されました。しかし、フローレス弁護士は、控訴を提起し、記録が控訴裁判所に送付されたにもかかわらず、最高裁判所に対して「控訴を提起していない」と虚偽の陳述を行いました。
さらに、フローレス弁護士は、ラ・トリニダード地方裁判所に、同一の目的を達成するための訴訟を二件提起しました。これらの訴訟は、実質的に執行差し止め訴訟と同じであり、フォーラム・ショッピングに該当する行為でした。BENECOは、フローレス弁護士のこれらの行為を不正行為とみなし、最高裁判所に懲戒請求を行いました。
フィリピン弁護士会(IBP)は、本件を調査し、フローレス弁護士が弁護士倫理規範に違反したと認定しました。IBPは、フローレス弁護士を6ヶ月間の弁護士資格停止処分とするよう勧告しましたが、最高裁判所は、IBPの勧告を支持しつつ、懲戒期間を1年6ヶ月に延長しました。最高裁判所は、フローレス弁護士のフォーラム・ショッピングと虚偽陳述を重大な不正行為とみなし、弁護士としての適格性を欠くと判断しました。
最高裁判所の判決の中で、特に重要な部分を引用します。
「フォーラム・ショッピングとは、ある裁判所で不利な意見が出た場合に、当事者が別の裁判所で有利な意見を求めようとする行為、または、同一の訴訟原因に基づいて二つ以上の訴訟を提起し、いずれかの裁判所が有利な処分を下すことを期待する行為である。」
「弁護士は真実の使徒でなければならない。弁護士倫理規範の下で、弁護士は裁判所に対して誠実、公正、かつ善意をもって臨む義務を負う。弁護士は、虚偽の行為を自ら行ってはならず、また、他者が行うことを容認してもならない。また、弁護士は、裁判所を欺いたり、誤解させたりするような策略を用いるべきではない。」
これらの引用部分から、最高裁判所が、フォーラム・ショッピングと虚偽陳述を弁護士として絶対に行ってはならない不正行為と捉えていることが明確に分かります。
実務上の教訓:弁護士が不正行為を避けるために
本判決は、弁護士に対して、フォーラム・ショッピングや虚偽陳述などの不正行為を絶対に行わないよう強く警告するものです。弁護士は、常に誠実かつ公正な態度で職務を遂行し、司法制度の信頼性を損なうような行為を慎むべきです。特に、以下の点に注意する必要があります。
- フォーラム・ショッピングの禁止:不利な判決が出たとしても、安易に別の裁判所に訴訟を提起するのではなく、適切な法的手段(控訴、上告など)を検討すべきです。
- 虚偽陳述の禁止:裁判所に対して、事実を歪曲したり、虚偽の情報を伝えたりする行為は絶対に行ってはなりません。常に真実を述べ、誠実な態度で訴訟に臨むべきです。
- 弁護士倫理規範の遵守:弁護士倫理規範を熟知し、その内容を遵守することが重要です。倫理規範に違反する行為は、懲戒処分の対象となるだけでなく、弁護士としての信頼を失うことにもつながります。
本判決は、弁護士だけでなく、法律サービスを利用する一般の人々にとっても重要な教訓を含んでいます。クライアントは、弁護士を選ぶ際に、倫理観が高く、信頼できる弁護士を選ぶべきです。また、弁護士が不正行為を行った場合には、躊躇なく懲戒請求を行うべきです。司法制度の健全性を維持するためには、弁護士自身だけでなく、クライアントや社会全体が倫理的な行動を求めることが不可欠です。
よくある質問(FAQ)
- フォーラム・ショッピングとは具体的にどのような行為ですか?
フォーラム・ショッピングとは、同一または関連する訴訟原因に基づいて、複数の裁判所に訴訟を提起する行為です。例えば、ある裁判所で不利な判決が出た後に、同じ訴訟原因で別の裁判所に訴訟を提起する場合や、複数の裁判所に同時に同様の訴訟を提起する場合などが該当します。 - なぜフォーラム・ショッピングは禁止されているのですか?
フォーラム・ショッピングは、司法制度の濫用であり、裁判所の資源を浪費し、相手方当事者に不当な負担を強いるからです。また、フォーラム・ショッピングは、司法の公正さを損ない、社会の信頼を失墜させる行為でもあります。 - 弁護士が虚偽陳述を行った場合、どのような懲戒処分が科されますか?
弁護士が虚偽陳述を行った場合、弁護士倫理規範違反として、戒告、業務停止、弁護士資格停止、弁護士資格剥奪などの懲戒処分が科される可能性があります。懲戒処分の内容は、虚偽陳述の程度や状況、弁護士の反省の度合いなどによって異なります。 - 弁護士の不正行為を発見した場合、どのように対応すればよいですか?
弁護士の不正行為を発見した場合、まずは弁護士会に相談することをお勧めします。弁護士会は、弁護士の倫理問題に関する相談を受け付けており、適切なアドバイスや対応を提供してくれます。また、弁護士の不正行為が重大な場合には、懲戒請求を行うことも検討すべきです。 - 本判決から弁護士は何を学ぶべきですか?
本判決から弁護士は、フォーラム・ショッピングや虚偽陳述などの不正行為は絶対に行ってはならないということを学ぶべきです。弁護士は、常に誠実かつ公正な態度で職務を遂行し、弁護士倫理規範を遵守することが求められます。また、本判決は、弁護士倫理の重要性を改めて認識させ、弁護士としての責任と自覚を促すものです。
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