海外雇用契約における企業役員の連帯責任:フィリピン最高裁判所の判断

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本判決は、海外雇用契約(OEC)に基づく金銭請求において、企業役員の連帯責任を明確化するものです。最高裁判所は、海外フィリピン人労働者(OFW)の権利保護を強化するため、企業役員も企業(人材派遣会社)と連帯して責任を負うとの判断を下しました。これは、OFWが賃金や福利厚生を確実に受け取れるようにするための重要な措置です。本判決により、企業役員は、より一層の注意義務を持ってOECを管理し、OFWの権利を尊重する必要があります。今後は、企業だけでなく、その経営責任者も法的責任を問われる可能性があるため、コンプライアンス遵守がより重要になります。

海難事故と解雇:海外雇用契約における経営責任の所在

本件は、海上で負傷した船員ジャカーソン・G・ガルガロ氏が、雇用主であるドール・シーフロント・クルーイング(マニラ)社らに対し、障害給付を求めた訴訟です。ガルガロ氏は、労災による一時的な障害に対する収入補償を求めていましたが、当初、会社側は支払いを拒否しました。最高裁判所は、企業だけでなく、担当役員個人にも連帯責任を認め、海外労働者の保護を強化する判断を下しました。この判決は、企業が海外労働者の権利を侵害した場合、経営者個人の責任も問われることを示唆しており、今後の海外雇用契約のあり方に大きな影響を与える可能性があります。

ガルガロ氏は、重い油樽を持ち上げる際に甲板で転倒し、左腕を強打しました。その後、手術と治療を受けたものの、船員として復帰することはできませんでした。ガルガロ氏は、会社の指定医ではなく、自らが選んだ医師から、労働不能の診断を受けました。ガルガロ氏は、会社側の医師の診断は、自己都合であり信頼できないと主張しました。これに対し、会社側は、指定医が継続的にガルガロ氏の治療と経過観察を行っており、ガルガロ氏が海外雇用庁(POEA)の標準雇用契約(SEC)に基づく紛争解決手続きに従わなかったと反論しました。

労働仲裁官(LA)と労働関係委員会(NLRC)は、ガルガロ氏が選んだ医師の診断を重視し、ガルガロ氏の障害給付請求を認めましたが、給付額については異なりました。しかし、控訴院(CA)は、ガルガロ氏の訴えを却下しました。その理由は、訴えの提起が時期尚早であり、ガルガロ氏が会社の指定医による治療を受けており、適性評価が未だなされていなかったからです。控訴院は、ガルガロ氏の状態を継続的に監視してきた会社側の医師の診断を、訴訟提起から2か月後に一度診察しただけのガルガロ氏が選んだ医師の診断よりも信頼できると判断しました。

最高裁判所は、2015年9月16日の判決で、障害給付金の請求を認めませんでしたが、ドール・シーフロント社とドール・マニング社に対し、ガルガロ氏の一時的な障害による収入給付金を支払うよう命じました。これは、2012年3月11日の帰国から、2012年9月21日に適格と判断されるまでの194日間の収入を補償するものです。一方、パディズ氏については、職権を濫用したり悪意があったことを示す証拠がないため、支払い義務はないと判断しました。

しかし、最高裁判所はガルガロ氏の訴えを一部認め、RA 8042(改正海外労働者法)の第10条に基づき、パディズ氏にも連帯責任を認めました。RA 8042第10条は、企業役員は人材派遣会社と連帯して、海外労働者への金銭債務や損害賠償を負うと規定しています。企業役員が企業を代表して契約を締結した場合、原則として企業の債務について個人的な責任を負うことはありませんが、法律の規定により、企業役員がその行為について個人的に責任を負う場合は例外となります。

ドール・シーフロント社は、人材派遣業の免許を申請する際に、役員が企業と連帯して責任を負うという誓約書を提出していると推定されます。この誓約書は、POEA規則(海外船員の人材募集・雇用に関する規則)で義務付けられています。法令は、明示的な参照がなくても契約の一部を構成すると見なされます。特に、労働契約は公益性を持つため、その重要性は高まります。契約には、明示的に定められた内容だけでなく、関連する法令の規定も含まれます。最高裁は、会社側が社会保障制度(SSS)に船員を加入させる義務を負っていると指摘しました。一時的な労働不能による収入給付は、雇用主が立て替え、その後、SSSから払い戻されるべきであると判示しました。

もっとも、弁護士費用については、訴訟提起に至ったというだけでは、弁護士費用の支払いを正当化する理由にはなりません。裁判所は、正当な理由なく賃金や給付金の支払いを拒否した場合にのみ、弁護士費用を認めることができると判断しました。本件では、ガルガロ氏の訴えが時期尚早であったため、会社側が不当に給付金の支払いを拒否したとは言えず、弁護士費用の支払いを命じることは不適切であると結論付けました。

FAQs

この判決の重要な争点は何でしたか? この判決の重要な争点は、海外雇用契約において、企業役員がどの範囲まで連帯責任を負うかという点でした。最高裁判所は、改正海外労働者法の規定に基づき、企業役員にも連帯責任を認め、海外労働者の保護を強化しました。
RA 8042とはどのような法律ですか? RA 8042(改正海外労働者法)は、海外で働くフィリピン人労働者の権利保護を強化するために制定された法律です。この法律は、海外労働者の募集、雇用、福利厚生などについて規定しており、違反した場合には罰則が科せられます。
POEA規則とは何ですか? POEA規則(海外船員の人材募集・雇用に関する規則)は、海外で働くフィリピン人船員の人材募集と雇用に関する規則を定めたものです。この規則は、POEA(フィリピン海外雇用庁)によって公布され、海外船員の権利保護を目的としています。
この判決は、企業役員にどのような影響を与えますか? この判決により、企業役員は、海外雇用契約の管理において、より一層の注意義務を負うことになります。今後は、企業だけでなく、その経営責任者も法的責任を問われる可能性があるため、コンプライアンス遵守がより重要になります。
収入給付金とは何ですか? 収入給付金とは、労働者が業務上の事由により一時的に労働不能になった場合に、その間の収入を補償するために支払われる給付金です。本件では、ガルガロ氏が一時的に労働不能になった期間中の収入を補償するために、会社側が支払うことを命じられました。
連帯責任とはどういう意味ですか? 連帯責任とは、複数の債務者が同一の債務について、各自が全額を支払う責任を負うことを意味します。本件では、ドール・シーフロント社、ドール・マニング社、およびパディズ氏が、ガルガロ氏に対する収入給付金の支払いについて、連帯して責任を負うことになりました。
なぜ弁護士費用の請求が認められなかったのですか? 弁護士費用の請求が認められなかったのは、ガルガロ氏の訴えが時期尚早であり、会社側が不当に給付金の支払いを拒否したとは言えないからです。裁判所は、正当な理由なく賃金や給付金の支払いを拒否した場合にのみ、弁護士費用を認めることができると判断しました。
海外雇用契約で紛争が発生した場合、どのような手続きを踏むべきですか? 海外雇用契約で紛争が発生した場合、まずはPOEAの標準雇用契約(SEC)に定められた紛争解決手続きに従うべきです。紛争解決手続きには、仲裁、調停、訴訟などが含まれます。また、必要に応じて、弁護士や専門家などに相談することも重要です。

今回の判決は、海外で働くフィリピン人労働者の権利保護を強化するための重要な一歩となります。企業は、海外雇用契約を遵守し、労働者の権利を尊重する義務を負っています。万が一、紛争が発生した場合には、適切な紛争解決手続きを通じて、誠実に対応することが求められます。

本判決の具体的な状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Lawまでご連絡ください。お問い合わせまたはメール(frontdesk@asglawpartners.com)でお気軽にお問い合わせください。

免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:JAKERSON G. GARGALLO対DOHLE SEAFRONT CREWING(マニラ)他, G.R. No. 215551, 2016年8月17日

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