逮捕状は予備調査完了前に発行可能?令状主義の例外と実務上の注意点
G.R. No. 104645, 1998年7月23日
フィリピンでは、重大犯罪の場合、逮捕状の発行には裁判官による蓋然性(probable cause)の判断が憲法で義務付けられています。しかし、予備調査(preliminary investigation)が完了する前に逮捕状が発行されることは、適正手続きの観点から問題がないのでしょうか?本判例は、この点について重要な判断を示しています。
令状主義と予備調査の関係:憲法と規則の条文
フィリピン憲法第3条第2項は、逮捕状は、裁判官が宣誓供述または確約供述に基づき、逮捕の理由となる相当な理由があると個人的に判断した場合でなければ発行されないと規定しています。これは令状主義と呼ばれる原則であり、不当な逮捕から国民を保護するための重要な人権です。
一方、刑事訴訟規則112条3項は、地方裁判所が管轄する犯罪については、原則として予備調査を経なければ訴状または情報が提起できないと定めています。予備調査は、検察官が犯罪の嫌疑を判断し、起訴の可否を決定するための手続きです。
これらの規定を組み合わせると、逮捕状の発行と予備調査の実施の順序について疑問が生じます。予備調査が完了する前に逮捕状を発行することは、被告人の権利を侵害するのではないか、という懸念が生じるのは自然なことです。
事件の経緯:違法募集事件と逮捕状
本件は、違法募集(illegal recruitment)事件に関連しています。告訴状によると、アレリオ・ベルナルデス・ペン被告は、他の被告人と共謀し、DOLE(労働雇用省)の許可を得ずにバコロド市で求職者を募集したとされています。当初、情報には共犯者は「John Doe」と記載されていましたが、後にペン被告であることが特定されました。
検察官は、情報を修正し、ペン被告を特定する修正情報を裁判所に提出しました。裁判所は修正情報を受理し、逮捕状を発行しました。ペン被告は、予備調査を受ける権利を侵害されたとして、逮捕状の取り消しを求めました。しかし、裁判所はこれを認めず、逮捕状を再発行(alias warrant)しました。これが本件訴訟の背景です。
最高裁判所の判断:予備調査前でも逮捕状発行は適法
最高裁判所は、地方裁判所が管轄する犯罪であっても、予備調査が完了する前に逮捕状を発行することは違法ではないと判断しました。その理由として、以下の点を挙げています。
- 刑事訴訟規則112条は、予備調査の完了前に訴状または情報を提起することを禁じているだけであり、逮捕状の発行時期を制限するものではない。
- 規則は、裁判所が蓋然性があると判断し、正義の実現を妨げないために被告人を直ちに拘束する必要があると認める場合には、予備調査の第二段階(被告人に反論の機会を与える段階)に入る前であっても逮捕状を発行できることを認めている。
- 本件では、裁判所は、告訴状、宣誓供述書、その他の証拠を検討した結果、ペン被告に犯罪の蓋然性があると判断しており、憲法上の要件を満たしている。
最高裁判所は判決の中で、「裁判官は、告訴人および証人の書面による宣誓供述を精査し、質問応答形式で尋問した後、犯罪の蓋然性が存在し、正義の実現を妨げないために被告人を直ちに拘束する必要があると納得した場合、逮捕状を発行できる」と述べています。
重要なのは、逮捕状の発行には、予備調査の完了ではなく、裁判官による蓋然性の判断が必要であるという点です。予備調査は起訴の前提となる手続きですが、逮捕状の発行は、逃亡や証拠隠滅を防ぎ、刑事手続きを円滑に進めるための措置であり、必ずしも予備調査の完了を待つ必要はないと解釈されています。
実務上の教訓:違法募集事件と逮捕状の関係
本判例は、違法募集事件においても、容疑者の逮捕状が予備調査完了前に発行される可能性があることを明確にしました。違法募集は、多くの被害者を出し、経済的にも深刻な影響を与える犯罪であり、迅速な捜査と容疑者の身柄確保が重要となります。本判例は、そのような実務上の要請に応えるものと言えるでしょう。
企業や個人は、違法募集に関与しないよう、労働法規制を遵守することが重要です。また、求職者は、募集活動を行う企業がDOLEの許可を得ているかを確認するなど、自己防衛の措置を講じる必要があります。
本判例から得られる教訓
- フィリピンでは、予備調査が完了する前であっても、裁判官が蓋然性を認めれば逮捕状が発行されることがある。
- 逮捕状の発行には、予備調査の完了ではなく、裁判官による独立した蓋然性の判断が憲法上要求される。
- 違法募集事件においても、容疑者の逮捕状が予備調査前に発行される可能性がある。
- 企業や個人は、違法募集に関与しないよう、労働法規制を遵守する必要がある。
よくある質問 (FAQ)
Q: 予備調査とは何ですか?
A: 予備調査(preliminary investigation)は、検察官が犯罪の嫌疑を判断し、起訴の可否を決定するための手続きです。重大犯罪の場合、原則として予備調査を経なければ起訴できません。
Q: 逮捕状なしで逮捕されることはありますか?
A: はい、現行犯逮捕など、一定の要件を満たす場合には、逮捕状なしで逮捕されることがあります。ただし、逮捕後には裁判所の審査を受ける必要があります。
Q: 逮捕状が出たら必ず逮捕されるのですか?
A: はい、逮捕状は裁判所が発付した正式な命令であり、警察はこれに基づいて容疑者を逮捕する義務があります。
Q: 違法募集で逮捕された場合、どのような罪になりますか?
A: 違法募集は、労働法違反として処罰されます。大規模な違法募集の場合、より重い刑罰が科される可能性があります。
Q: 違法募集に遭わないためにはどうすればいいですか?
A: 求人情報をよく確認し、不審な点があればDOLEに問い合わせるなど、慎重な対応が必要です。高収入を謳う求人には特に注意が必要です。
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Source: Supreme Court E-Library
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