フィリピン法における共犯と共謀:最高裁判所の判例解説と実務への影響

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共犯か共謀か?フィリピン最高裁判所が示す刑事責任の境界線

G.R. No. 128966, August 18, 1999

フィリピンの刑事法において、犯罪行為への関与の度合いは、刑事責任の重さを大きく左右します。特に、複数人が関与する犯罪においては、「共謀」と「共犯」という概念が重要になります。共謀は、犯罪の計画段階から関与し、犯罪遂行の意思決定を共にする場合に成立します。一方、共犯は、犯罪の実行を助ける行為を行うものの、犯罪計画の決定には関与しない場合に成立します。この判例は、共謀と共犯の境界線を明確にし、刑事責任の範囲を定める上で重要な指針を示しています。実際の事例を通して、共謀と共犯の違い、そしてそれぞれの法的責任について深く掘り下げていきましょう。

事件の概要:見張りが共犯となる場合、共謀となる場合

この事件は、フレデリック・カプルンという被害者が射殺された事件です。エドウィン・デ・ベラ、ロデリック・ガルシア、ケネス・フロレンド、エルマー・カストロの4人が被告人として起訴されました。このうち、デ・ベラとガルシアは有罪判決を受けましたが、デ・ベラのみが上訴しました。事件の焦点は、デ・ベラの行為が共謀とみなされるのか、それとも共犯とみなされるのかという点でした。目撃者の証言、被告人の供述、そして証拠に基づいて、最高裁判所はデ・ベラの刑事責任を判断しました。

法的背景:共謀罪と共犯罪の定義

フィリピン刑法第8条は共謀を、「二人以上の者が重罪の実行について合意し、実行することを決定した場合」と定義しています。共謀罪が成立するためには、①二人以上の合意、②犯罪実行に関する合意、③重罪の実行の決定、という3つの要件が必要です。共謀が証明された場合、共謀者は全員が正犯として扱われ、共同して犯罪を実行したとみなされます。つまり、一人の行為は全員の行為とみなされ、全員が同じ刑事責任を負うことになります。

一方、フィリピン刑法第18条は共犯を、「第17条に規定される正犯に該当しない者で、犯罪の実行に前または同時行為によって協力した者」と定義しています。共犯が成立するためには、①正犯の犯罪計画を知っていること、②正犯の犯罪計画に意図的に協力すること、③犯罪の実行に不可欠ではない行為を行うこと、という2つの要素が必要です。共犯の刑事責任は、正犯よりも一段階軽いものとされています。

重要なのは、共謀と共犯の区別が、刑事責任の重さに直接影響を与えるという点です。共謀罪で有罪となれば正犯と同じ責任を負いますが、共犯罪であれば一段階軽い責任となります。この判例は、共謀と共犯の境界線を明確にし、具体的な事例を通してその違いを理解する上で非常に重要です。

判決内容の詳細:最高裁判所の判断

この事件において、一審の地方裁判所は、目撃者ベルナルド・カカオの証言と科学的証拠に基づき、被告人全員に共謀があったと認定し、エドウィン・デ・ベラとロデリック・ガルシアを殺人罪で有罪としました。しかし、最高裁判所は、一審の判断を一部覆し、デ・ベラの責任を共犯にとどまると判断しました。以下に、最高裁判所の判断のポイントを詳しく見ていきましょう。

目撃者の証言と証拠

目撃者カカオの証言は、デ・ベラが被害者の車に同乗していたこと、そしてフロレンドが被害者を車から引きずり出し射殺したことを証言しました。しかし、カカオの証言は、デ・ベラが犯罪行為に積極的に関与したことを示すものではありませんでした。最高裁判所は、単に現場にいたというだけでは共謀罪は成立しないと判断しました。共謀罪を立証するためには、合理的な疑いを排して共謀があったことを証明する必要があり、この事件ではそれが不十分であるとされました。

デ・ベラの供述調書

検察側は、デ・ベラの供述調書を証拠として提出しました。供述調書の中で、デ・ベラはフロレンドが被害者を殺害する意図を知っていたこと、仲間が武器を所持していたこと、そして自分が見張り役を務めたことを認めています。しかし、最高裁判所は、デ・ベラの供述調書の内容を詳細に分析し、彼が犯罪計画の決定段階から関与していたわけではないと判断しました。デ・ベラは、フロレンドらの犯罪計画を知った上で、消極的に協力したに過ぎないと認定されました。

共謀罪と共犯罪の区別

最高裁判所は、判決の中で共謀罪と共犯罪の違いを改めて明確にしました。共謀者は、犯罪計画を決定し、実行を主導する者です。一方、共犯者は、犯罪計画を知りながらも、その決定には関与せず、犯罪の実行を補助する行為を行う者です。この事件において、デ・ベラはフロレンドらの犯罪計画を知っていましたが、計画の決定には関与していませんでした。彼が行った見張り行為は、犯罪の実行を助けるものではありましたが、犯罪遂行に不可欠な行為ではありませんでした。これらの点を総合的に判断し、最高裁判所はデ・ベラの責任を共犯にとどまると結論付けました。

量刑の変更

最高裁判所は、デ・ベラの罪状を共謀罪から共犯罪に変更したことに伴い、量刑も変更しました。一審判決では終身刑(reclusion perpetua)が言い渡されましたが、最高裁判所は、デ・ベラに懲役8年1日~14年8月1日の不定期間刑を言い渡しました。また、損害賠償についても一部修正し、逸失利益に関する賠償は証拠不十分として認められませんでした。しかし、死亡慰謝料、慰謝料、および弁護士費用は一審判決を支持し、確定しました。

実務への影響:今後の類似事件への適用

この判例は、フィリピンの刑事裁判において、共謀罪と共犯罪の区別を明確にする上で重要な役割を果たしています。特に、複数人が関与する犯罪事件において、個々の被告人の行為が共謀に該当するのか、それとも共犯に該当するのかを判断する際の指針となります。今後の類似事件においては、裁判所は、被告人の犯罪計画への関与の度合い、犯罪実行における役割、そして犯罪遂行への意思決定への関与などを総合的に考慮し、共謀罪と共犯罪を厳格に区別することが求められるでしょう。

企業や個人への法的アドバイス

この判例から得られる教訓は、犯罪行為に関与する際には、その関与の度合いによって刑事責任が大きく異なるということです。たとえ犯罪の実行を直接行わなくても、犯罪計画の段階から関与し、犯罪遂行の意思決定を共にする共謀者とみなされれば、正犯と同等の重い責任を負うことになります。一方、犯罪計画を知りながらも、消極的に協力する共犯とみなされれば、責任は軽減されます。しかし、いずれにしても刑事責任を免れることはできません。犯罪行為には絶対に関与しないことが最も重要です。

主要な教訓

  • 共謀罪と共犯罪は、刑事責任の重さが大きく異なる。
  • 共謀罪は、犯罪計画の決定段階から関与し、犯罪遂行の意思決定を共にする場合に成立する。
  • 共犯罪は、犯罪の実行を助ける行為を行うものの、犯罪計画の決定には関与しない場合に成立する。
  • 共謀罪で有罪となれば正犯と同じ責任を負い、共犯罪であれば一段階軽い責任となる。
  • 犯罪行為には絶対に関与しないことが最も重要である。

よくある質問(FAQ)

Q1. 共謀罪と共犯罪の最も大きな違いは何ですか?

A1. 最も大きな違いは、犯罪計画の決定への関与の有無です。共謀者は犯罪計画を決定し、共犯者は犯罪計画を知りながらも、その決定には関与しません。

Q2. 見張り役は必ず共犯になるのですか?

A2. いいえ、見張り役の行為が共謀とみなされる場合もあります。例えば、見張り役が犯罪計画の段階から参加し、犯罪遂行に重要な役割を果たしている場合などは、共謀とみなされる可能性があります。この判例のように、見張り役の行為が犯罪遂行に不可欠ではないと判断された場合は、共犯となります。

Q3. 共犯でも刑事責任を問われますか?

A3. はい、共犯でも刑事責任を問われます。ただし、共犯の刑事責任は、正犯よりも一段階軽いものとされています。

Q4. 犯罪グループに誘われた場合、どうすれば良いですか?

A4. 犯罪グループには絶対に関わらないでください。もし犯罪グループに誘われた場合は、すぐに警察に相談してください。

Q5. この判例は、どのような場合に参考になりますか?

A5. この判例は、複数人が関与する犯罪事件において、個々の被告人の刑事責任を判断する際に参考になります。特に、共謀罪と共犯罪の区別が問題となる事件において、重要な判断基準となります。

ASG Lawは、フィリピン法、特に刑事法分野において豊富な経験と専門知識を有する法律事務所です。共謀罪、共犯罪に関するご相談、その他法的問題でお困りの際は、お気軽にご連絡ください。経験豊富な弁護士が、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適な法的アドバイスを提供いたします。

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