本判決は、盗品と知りながら、または知り得た状況で物品を取得・所持した場合の「盗品譲受罪」の成立要件と刑事責任を明確にするものです。フィリピン最高裁判所は、盗品譲受罪の成立には、窃盗または強盗が行われた事実、被告がその犯罪の実行犯または共犯者ではないこと、そして、被告が当該物品が盗品であることを知りながら、または知り得たはずであること、そして、利得を得る意図があったことが必要であると判示しました。本判決は、盗品譲受罪における「知り得た」という要件の解釈と適用に重要な影響を与え、物品の取引や所持において、より一層の注意義務が求められることを示唆しています。
スカイドロール油盗難事件:善意の第三者か、共犯者か?
事件は、ベニート・エストレラがフィリピン航空(PAL)所有のスカイドロール油3缶を所持・処分していたことから始まりました。PALは、自社の航空機メンテナンスに使用する特殊な油であるスカイドロール油が、会社の規模縮小にもかかわらず消費量が増加していることに気づき調査を開始。その結果、エストレラが経営する会社が、PALから盗まれた可能性のあるスカイドロール油を販売していることが判明し、警察に通報しました。警察はエストレラを逮捕し、盗品譲受罪で起訴しました。エストレラは、油の出所は別の会社であり、盗品とは知らなかったと主張しましたが、裁判所は彼の主張を認めず、有罪判決を下しました。裁判の争点は、エストレラがスカイドロール油が盗品であることを知っていたか、または知り得た状況であったかどうかでした。
裁判所は、盗品譲受罪の成立要件を詳細に検討しました。大統領令1612号第2条は、「何人も、自己または他者のために利益を得る意図をもって、窃盗または強盗によって得られた物品であることを知りながら、または知り得た状況で、当該物品を購入、受領、所持、保管、取得、隠蔽、販売、処分し、または売買し、もしくは何らかの方法で取引する行為」を盗品譲受罪と定義しています。裁判所は、エストレラが油の出所を明確に示せず、盗品であることを知り得た状況であったと判断しました。
特に、PALがスカイドロール油の唯一の輸入業者であり、エストレラが正当な入手経路を証明できなかった点が重視されました。エストレラは、油の仕入先として「ジュペル」という人物を挙げましたが、裁判所への出廷も、油の出所を証明する書類の提出もありませんでした。裁判所は、これらの状況から、エストレラがスカイドロール油が盗品であることを知り得た状況であったと認定しました。また、大統領令1612号第5条は、「窃盗または強盗の対象となった物品を所持している場合、盗品譲受の推定が成立する」と規定しており、エストレラはこの推定を覆すだけの十分な証拠を提示できませんでした。
裁判所は、エストレラの弁明を退け、原判決を支持しました。盗品譲受罪は、刑法上の「正犯」と「共犯」という区別とは異なり、盗品に関与したことがなくても成立する犯罪です。裁判所は、犯罪の種類を区別しました。刑法は犯罪を「それ自体が悪い行為(mala in se)」と「法律が禁止しているから悪い行為(mala prohibita)」に分けています。前者は意図が重要ですが、後者は法律違反の有無のみが問われます。エストレラの行為は後者に該当し、意図は問題とならないと判断しました。
さらに、裁判所は、下級裁判所がエストレラに対して科した刑罰を一部修正しました。スカイドロール油の価値が22,000ペソを超えているため、刑罰はプリシオン・マヨール(prision mayor)の最長期間となり、これは10年1日~12年の範囲です。情状酌量や加重事由がないため、裁判所はエストレラに、最低10年8ヶ月1日のプリシオン・マヨールから、最長11年4ヶ月のプリシオン・マヨールを言い渡しました。最高裁判所は、法改正により窃盗罪の刑罰が調整されたものの、盗品譲受罪の刑罰は依然として改正前の基準に基づいているため、刑罰の不均衡が生じていることを指摘し、立法府に対し、刑罰の再検討を促しました。
FAQs
この事件の重要な争点は何でしたか? | 被告が所持していたスカイドロール油が盗品であることを知っていたか、または知り得た状況であったかどうかです。 |
盗品譲受罪の成立要件は何ですか? | 窃盗または強盗が発生したこと、被告が実行犯または共犯者ではないこと、被告が盗品であることを知りながら、または知り得たはずであること、利得を得る意図があったことです。 |
なぜ被告は有罪と判断されたのですか? | 被告が油の正当な入手経路を証明できず、PALが唯一の輸入業者であったため、盗品であることを知り得たと判断されました。 |
被告はどのような弁明をしましたか? | 油の出所は別の会社であり、盗品とは知らなかったと主張しましたが、裁判所は彼の主張を認めませんでした。 |
裁判所はどのような刑罰を科しましたか? | 最低10年8ヶ月1日のプリシオン・マヨールから、最長11年4ヶ月のプリシオン・マヨールを言い渡しました。 |
盗品譲受罪の「知り得た」とはどういう意味ですか? | 正当な注意を払えば、盗品であることを認識できたはずの状況を指します。 |
なぜ窃盗罪より盗品譲受罪の方が刑罰が重くなる可能性があるのですか? | 法改正により窃盗罪の刑罰が調整されたものの、盗品譲受罪の刑罰は依然として改正前の基準に基づいているため、刑罰の不均衡が生じています。 |
この判決は今後の取引にどのような影響を与えますか? | 物品の取引や所持において、より一層の注意義務が求められることを示唆しています。 |
本判決は、盗品譲受罪の成立要件を明確にし、物品の取引における注意義務の重要性を示唆しています。今後は、物品を取得する際に、その出所を十分に確認し、盗品であることを知り得た状況にないか慎重に判断する必要があります。
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免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的助言については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:BENITO ESTRELLA Y GILI VS. PEOPLE OF THE PHILIPPINES, G.R. No. 212942, June 17, 2020