不当解雇を訴える従業員、企業は適切な手続きと立証責任を負う
G.R. No. 122368 BERNARDO NAZAL AND C.B. NAZAL TRADING, PETITIONERS, VS. NATIONAL LABOR RELATIONS COMMISSION AND ERNESTO CASTRO, RESPONDENTS.
職を失うことは、誰にとっても大きな不安です。特に、突然解雇を言い渡された場合、生活は一変する可能性があります。フィリピンでは、労働者の権利は法律で手厚く保護されており、不当な解雇は許されません。しかし、企業側が「従業員が職務放棄した」と主張する場合、解雇の有効性はどのように判断されるのでしょうか?
本稿では、最高裁判所の判例、Bernardo Nazal and C.B. Nazal Trading v. National Labor Relations Commission and Ernesto Castro (G.R. No. 122368, 1997年6月19日判決) を詳細に分析し、不当解雇と職務放棄をめぐる法的原則、企業の責任、そして従業員が知っておくべき権利について解説します。この判例は、企業が解雇を正当化するために職務放棄を主張する場合の立証責任の重さ、そして従業員保護の重要性を明確に示しています。
不当解雇とは?フィリピン労働法における定義と保護
フィリピン労働法典第294条(旧第282条)は、正当な理由がない限り、雇用主は従業員を解雇できないと規定しています。正当な理由として認められるのは、従業員の重大な不正行為、職務怠慢、詐欺または信頼の喪失、法律または会社の規則・規制に対する意図的な違反など、限定的に列挙されています。これらの理由に該当する場合でも、企業は解雇前に適切な手続き(適正な手続き)を踏む必要があります。
一方、従業員が「職務放棄」した場合、これは解雇の正当な理由となり得ます。しかし、最高裁判所は、職務放棄の認定には厳格な要件を課しています。単に無断欠勤が続いたというだけでは職務放棄とはみなされず、従業員が明確に職務を放棄する意思表示をしたこと、そしてそれを裏付ける具体的な行動があったことを企業側が立証する必要があります。
本判例で重要な条文は、労働法典第297条(旧第285条)です。これは、正当な理由なく解雇された従業員に対する救済措置を定めており、復職、賃金補償、およびその他の損害賠償を命じることができます。この条文は、不当解雇から労働者を保護する強力な法的根拠となっています。
労働法典 第294条(旧第282条)
「正当な理由および適正な手続きがある場合を除き、いかなる雇用者も従業員を解雇してはならない。」
事件の経緯:警備員の訴えと労働仲裁人、NLRCの判断
本件の原告エルネスト・カストロ氏は、ベルナルド・ナザル氏とC.B.ナザル・トレーディング社(以下「ナザル社」)に警備員として雇用されていました。1985年5月15日、ナザル社はカストロ氏を解雇。これに対し、カストロ氏は不当解雇であるとして、復職とバックペイ(解雇期間中の賃金補償)を求めて労働仲裁委員会に訴えを起こしました。
ナザル社は、解雇ではなく「カストロ氏が8ヶ月近く無断欠勤した職務放棄である」と主張しました。労働仲裁人は、ナザル社の主張を認め、カストロ氏の訴えを棄却しました。しかし、カストロ氏が控訴した国家労働関係委員会(NLRC)は、労働仲裁人の決定を覆し、事件を労働仲裁人に差し戻しました。NLRCは、ナザル社が職務放棄を立証する具体的な証拠を提示していないと指摘しました。
差し戻し審で、労働仲裁人は再びカストロ氏の訴えを棄却しましたが、NLRCは二度目の控訴審でこれを再び覆し、ナザル社に対し、バックペイ、退職金、弁護士費用を支払うよう命じました。ナザル社はNLRCの決定を不服として、最高裁判所に上告しました。
最高裁判所は、NLRCの決定を支持し、ナザル社の上告を棄却しました。判決の中で、最高裁は以下の点を重視しました。
- ナザル社は、カストロ氏を解雇するにあたり、正式な解雇手続き(適正な手続き)を全く行っていない。
- ナザル社の証人である総支配人は、カストロ氏が職務放棄したとされる理由や、解雇の理由について、明確な説明ができなかった。
- カストロ氏は、解雇後8ヶ月以内に不当解雇の訴えを起こしており、職務放棄の意思があったとは認められない。
- ナザル社は、カストロ氏の所在確認を試みたと主張するが、それは形式的なものであり、適正な手続きとは言えない。
- 解雇の正当な理由と適正な手続きの立証責任は企業側にある。ナザル社はこれを果たせなかった。
最高裁判所は、NLRCの判断は正当であり、重大な裁量権の濫用はないと結論付けました。そして、不当解雇されたカストロ氏への救済を命じたNLRCの決定を支持しました。
最高裁判所の判決文から、重要な部分を引用します。
「請願者らは、原告のサービスに対する正式な終了手続きを何ら実施しなかったことを、上記の開始訴状において認めている。[5] 事実、原告カストロ氏が解雇前に適正な手続きを与えられたことを示す証拠は一切提出されていない。労働仲裁人に対する請願者らの唯一の証人であるグリセラ・N・ナザル夫人は、カストロ氏が放棄したと主張する彼の仕事に関して、カストロ氏に手紙さえ書かなかったことを認めた。[6] 信じられないことに、請願者C.B.ナザル・トレーディング社の総支配人であるこの証人は、カストロ氏がなぜもはや彼らと働いていないのか、また彼の解雇理由も知らないとさらに断言した。[7]」
「従業員の解雇が正当な理由によるものであることを示す立証責任は雇用者にある。それを怠った場合、解雇は正当化されないことを意味する。[10]」
実務上の教訓:企業と従業員が留意すべき点
本判例は、企業と従業員双方にとって重要な教訓を含んでいます。
企業側の教訓
- 解雇は慎重に:従業員を解雇する際には、必ず労働法で定められた正当な理由と適正な手続きを遵守する。
- 職務放棄の立証責任:従業員が職務放棄したとして解雇を正当化する場合、職務放棄の意思と具体的な行動を明確に立証できる証拠を準備する。
- 適正な手続きの徹底:解雇理由の通知、弁明の機会の付与など、適正な手続きを必ず実施し、記録を残す。
- 証拠の重要性:口頭でのやり取りだけでなく、書面による記録(通知書、警告書、議事録など)を整備し、証拠として提出できるようにする。
従業員側の教訓
- 不当解雇には毅然と対応:不当解雇と感じた場合は、泣き寝入りせずに労働省(DOLE)やNLRCに相談し、法的救済を求める。
- 証拠の保全:解雇通知書、雇用契約書、給与明細など、雇用関係に関する書類は大切に保管する。
- 弁護士への相談:法的知識がない場合は、弁護士に相談し、適切なアドバイスを受ける。
- 権利の認識:フィリピン労働法は労働者を保護する法律であることを理解し、自身の権利を正しく認識する。
よくある質問(FAQ)
Q1. 職務放棄とは具体的にどのような場合を指しますか?
A1. 単なる無断欠勤ではなく、従業員が明確に職務を放棄する意思表示をし、それを裏付ける具体的な行動(例:退職届の提出、私物の持ち出し、職場への連絡を絶つなど)が必要です。
Q2. 適正な手続きとは具体的にどのような手続きですか?
A2. 解雇理由を記載した書面による通知、従業員に弁明の機会を与えること(聴聞会の実施など)、弁明内容を検討した上で解雇の最終決定を行うこと、などが含まれます。
Q3. もし不当解雇された場合、どこに相談すれば良いですか?
A3. フィリピン労働雇用省(DOLE)や国家労働関係委員会(NLRC)に相談することができます。また、労働問題を専門とする弁護士に相談することも有効です。
Q4. 不当解雇で訴えた場合、どのような救済措置が認められますか?
A4. 復職、解雇期間中の賃金補償(バックペイ)、退職金、精神的損害賠償、弁護士費用などが認められる可能性があります。具体的な救済措置は、個別のケースによって異なります。
Q5. 解雇予告期間はありますか?
A5. はい、フィリピン労働法では、解雇の種類や雇用期間に応じて解雇予告期間が定められています。不当な解雇予告期間なしの解雇も、不当解雇となる可能性があります。
Q6. 試用期間中の従業員も解雇規制の対象ですか?
A6. はい、試用期間中の従業員も、労働法による解雇規制の保護を受けます。試用期間中の解雇も、正当な理由と適正な手続きが必要です。
Q7. 会社から一方的に退職勧奨された場合、どうすれば良いですか?
A7. 退職勧奨は、従業員の合意に基づく退職を促すものです。合意しない場合は、退職勧奨を拒否することができます。もし、会社が強引に退職を迫る場合は、不当解雇となる可能性がありますので、弁護士に相談することをお勧めします。
ASG Lawは、フィリピンの労働法務に精通しており、不当解雇問題に関する豊富な経験と専門知識を有しています。不当解雇にお困りの際や、労働法に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。経験豊富な弁護士が、お客様の権利を守り、最善の解決策をご提案いたします。
ご相談はkonnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ から。


Source: Supreme Court E-Library
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