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  • 不動産取引の落とし穴:売買契約が担保に変わる?最高裁判決から学ぶエクイタブル・モーゲージの重要性

    売買契約とエクイタブル・モーゲージ:契約の真意を見抜く重要性

    G.R. No. 119794, 2000年10月3日 – トマス・シー・トゥアゾン対控訴裁判所、ジョン・シー・リム

    不動産取引において、契約書に「売買」と記載されていても、その実質がローンの担保設定である「エクイタブル・モーゲージ(衡平法上の抵当)」と解釈される場合があります。本稿では、フィリピン最高裁判所の判例、Tomas See Tuazon v. Court of Appeals and John Siy Lim事件を基に、売買契約がエクイタブル・モーゲージと判断される法的根拠と、そのような誤解を避けるための実務上の注意点について解説します。

    本判決は、契約書の文言だけでなく、当事者の真の意図を重視するフィリピン法の特徴を明確に示しています。不動産取引に関わる全ての方にとって、契約の形式だけでなく、その背後にある意図を正確に理解し、文書化することの重要性を認識する一助となるでしょう。

    エクイタブル・モーゲージとは?フィリピン民法の規定

    フィリピン民法1602条は、売買契約がエクイタブル・モーゲージと推定される場合を列挙しています。これは、契約書上は売買に見えても、実際には債務の担保を目的とした契約である場合に適用されます。条文を直接見てみましょう。

    民法1602条:以下のいずれかの状況が存在する場合、契約はエクイタブル・モーゲージであると推定される。
    (1) 買戻権付き売買の価格が著しく不相当な場合。
    (2) 売主が賃借人またはその他の資格で占有を継続する場合。
    (3) 買戻権の期間満了後または満了時に、買戻期間を延長するか、または新たな期間を付与する別の証書が作成される場合。
    (4) 買主が購入価格の一部を留保する場合。
    (5) 売主が売却物の税金を支払う義務を負う場合。
    (6) その他、当事者の真の意図が、取引が債務の支払またはその他の義務の履行を担保することであると公正に推認できる場合。

    重要なのは、これらの状況が「いずれか一つ」でも存在すれば、エクイタブル・モーゲージと推定される点です。全てが揃う必要も、多数の状況が重なる必要もありません。また、民法1604条は、1602条の規定が「絶対的売買」と称する契約にも適用されることを明記しており、契約の形式に捉われず実質を重視する姿勢が貫かれています。

    例えば、友人からお金を借りる際、 формально は不動産の売買契約書を作成しても、実際には返済を条件に不動産を担保として提供する意図であれば、それはエクイタブル・モーゲージとみなされる可能性があります。もし、市場価格よりも著しく低い価格で売買契約が結ばれ、売主がそのまま住み続けるようなケースでは、裁判所は契約の実質をエクイタブル・モーゲージと判断する可能性が高いでしょう。

    トゥアゾン対控訴裁判所事件:事実関係と裁判所の判断

    トゥアゾン氏夫妻は、ジョン・シー・リム氏に対し、不動産売買契約の無効確認と所有権確認、損害賠償を求めて訴訟を提起しました。トゥアゾン氏の主張は、 формально は売買契約だが、真の意図はリム氏からの100万ペソの融資であり、不動産はその担保として譲渡したに過ぎない、というものでした。一方、リム氏は売買契約は真正なものであり、所有権は自身にあると反論しました。

    事件の経緯を詳しく見ていきましょう。

    • 背景:トゥアゾン氏は事業資金調達のため、所有する不動産を担保に銀行から融資を受けていましたが、返済が滞り不動産が競売にかけられました。
    • リム氏の登場:トゥアゾン氏の娘と交際していたリム氏が、不動産の買い戻し資金として100万ペソを提供することを申し出ました。
    • 売買契約締結:1987年7月15日、トゥアゾン夫妻とリム氏の間で不動産の売買契約が締結されました。売買価格は38万ペソとされました。
    • トゥアゾン氏の主張:売買契約は формально なもので、実際は100万ペソの融資の担保設定であり、売買価格も不動産の価値に比べて著しく低いと主張しました。また、契約後もトゥアゾン氏は不動産に居住し続けました。
    • リム氏の主張:売買契約は真正なものであり、138万ペソで購入したと主張しました。
    • 下級審の判断:第一審裁判所はリム氏の主張を認め、売買契約を有効と判断しました。しかし、控訴裁判所はトゥアゾン氏の主張を一部認め、売買契約をエクイタブル・モーゲージと認定しました。
    • 最高裁判所の判断:最高裁判所は、控訴裁判所の判断を覆し、第一審裁判所の判断を支持しました。その理由として、以下の点を挙げています。

    最高裁判所は、契約書が弁護士によって明確に作成されており、売買契約の内容も明確である点を重視しました。また、トゥアゾン氏が主張する不動産の価値(250万ペソ)と売買価格(38万ペソ)の乖離についても、客観的な証拠が不十分であると判断しました。

    「契約の文言が明確で容易に理解できる場合、解釈の余地はない。契約は当事者間の law である。」

    「契約書面の修正を求める訴訟が認められるためには、(1) 当事者間の意思の合致、(2) 書面が当事者の真の意図を表現していないこと、(3) 書面が真の意図を表現していないことが、錯誤、詐欺、不当な行為、または事故によるものであること、の要件が満たされなければならない。」

    最高裁判所は、トゥアゾン氏がこれらの要件を立証できなかったと判断し、売買契約をエクイタブル・モーゲージと認めることはできないと結論付けました。結果として、不動産の所有権はリム氏にあると確定しました。

    実務上の教訓:エクイタブル・モーゲージのリスクを回避するために

    本判決から、不動産取引においてエクイタブル・モーゲージと誤解されるリスクを回避するために、以下の点が重要であることがわかります。

    • 契約書の明確化:契約書は、契約当事者の真の意図を正確かつ明確に反映するように作成する必要があります。特に、売買契約なのか、担保設定契約なのかを明確に区別することが重要です。
    • 適正な価格設定:売買契約の場合、不動産の市場価格を適切に反映した価格を設定することが重要です。市場価格から著しく乖離した価格設定は、エクイタブル・モーゲージと疑われる要因となります。
    • 占有の明確化:売買契約後も売主が占有を継続する場合は、その根拠を明確にする必要があります。賃貸借契約を締結するなど、売買契約に基づく占有ではないことを明確にすることが重要です。
    • 専門家への相談:不動産取引を行う際には、弁護士などの専門家に相談し、契約内容や手続きについて適切なアドバイスを受けることが不可欠です。

    主要な教訓:

    • 契約書は正確かつ明確に作成し、当事者の真の意図を反映させる。
    • 不動産取引の際は、専門家(弁護士など)に相談し、法的リスクを評価する。
    • エクイタブル・モーゲージと誤解されないよう、価格設定や占有状況に注意する。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: エクイタブル・モーゲージとは具体的にどのようなものですか?

    A1: エクイタブル・モーゲージとは、形式的には売買契約ですが、実質的には債務の担保を目的とした契約です。債務者が債権者にお金を借りる際に、不動産を формально に譲渡しますが、返済すれば不動産は債務者に戻るという取り決めです。裁判所は、契約書だけでなく、当事者の真の意図を考慮してエクイタブル・モーゲージかどうかを判断します。

    Q2: なぜ売買契約がエクイタブル・モーゲージと判断されることがあるのですか?

    A2: 当事者が契約書を作成する際に、意図を正確に反映していなかったり、法律の知識不足から誤った形式で契約を締結したりすることがあります。また、 формально には売買契約に見せかけて、実際には担保設定を意図する場合もあります。このような場合に、裁判所が実質的な契約関係をエクイタブル・モーゲージと認定することがあります。

    Q3: エクイタブル・モーゲージと判断されるとどうなりますか?

    A3: 売買契約がエクイタブル・モーゲージと判断された場合、買主(債権者)は不動産の所有権を формально に取得することはできず、抵当権者としての地位にとどまります。債務不履行の場合、抵当権実行の手続きが必要になります。売買契約として扱われる場合とは異なり、法的な手続きが複雑になる可能性があります。

    Q4: エクイタブル・モーゲージのリスクを避けるためにはどうすれば良いですか?

    A4: 契約書を作成する際に、契約の目的と内容を明確にし、曖昧な表現を避けることが重要です。特に、売買契約なのか、担保設定契約なのかを明確に区別し、契約書に明記する必要があります。また、不動産取引の専門家である弁護士に相談し、契約内容をチェックしてもらうことをお勧めします。

    Q5: もし売買契約がエクイタブル・モーゲージだと主張された場合、どうすれば良いですか?

    A5: まずは弁護士に相談し、法的なアドバイスを受けることが重要です。証拠を収集し、契約締結時の状況や当事者の意図を明らかにすることが求められます。裁判所での争いになる可能性もあるため、専門家のサポートが不可欠です。

    フィリピンの不動産取引および契約法に精通したASG Law Partnersは、エクイタブル・モーゲージに関するご相談を含め、幅広いリーガルサービスを提供しています。不動産取引や契約に関するお悩みは、ASG Law Partnersにご相談ください。豊富な経験と専門知識でお客様の法務ニーズをサポートいたします。まずはお気軽にご連絡ください。

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