NBIへの告訴はフォーラム・ショッピングに該当しない:弁護士が知っておくべき重要な判断
[A.C. No. 4634, 平成9年9月24日]
近年、訴訟手続きの複雑化と迅速な紛争解決へのニーズの高まりから、フォーラム・ショッピング、すなわち複数の裁判所や機関に重複して訴えを提起する行為が問題視されています。しかし、すべての重複した手続きがフォーラム・ショッピングとみなされるわけではありません。今回の最高裁判所の判例は、国家捜査局(NBI)への告訴が、その後の民事訴訟提起と併存してもフォーラム・ショッピングに当たらない場合があることを明確にしました。この判例は、弁護士が訴訟戦略を立てる上で、また、依頼者が不当な訴追を避ける上で、非常に重要な示唆を与えてくれます。
フォーラム・ショッピングとは何か?
フォーラム・ショッピングとは、不利な判断を避けるため、または有利な判断を得る可能性を高めるために、同一または類似の訴訟を複数の裁判所や行政機関に提起する行為を指します。フィリピン最高裁判所は、フォーラム・ショッピングを司法制度の濫用とみなし、厳しく戒めています。フォーラム・ショッピングは、裁判所の貴重な資源を浪費し、相手方に不必要な負担をかけ、司法制度全体の信頼性を損なうからです。
フィリピンでは、最高裁判所が発行するCircular No. 28-91、Revised Circular No. 28-91、Administrative Circular No. 04-94などの規則でフォーラム・ショッピングが禁止されています。これらの規則は、当事者に対し、同一の訴訟原因に基づく訴訟を複数の法廷に提起することを禁じています。違反した場合、訴訟の却下や懲戒処分の対象となることがあります。
しかし、これらの規則は、すべての重複手続きを禁止しているわけではありません。重要なのは、「同一の訴訟原因」と「同一の救済」を求めているかどうかです。例えば、刑事事件と民事事件は、訴訟原因と目的が異なるため、原則として併存が認められます。今回の判例は、この原則をNBIへの告訴という状況に適用し、その範囲を明確にした点で画期的と言えます。
Circular No. 28-91は、フォーラム・ショッピングを以下のように定義しています。
「フォーラム・ショッピングとは、ある法廷で不利な意見が出た結果、当事者が別の法廷で(上訴または職権再審査以外の方法で)有利な意見を求めようとすることである。」
この定義からもわかるように、フォーラム・ショッピングは、単に複数の法廷に訴えを提起することではなく、「不利な結果を回避しようとする意図」と「実質的に同一の訴訟」であることが要件となります。
事件の概要:カバルス対ベルナス事件
本件は、ヘスス・カバルス・ジュニア氏が弁護士ホセ・アントニオ・ベルナス氏を懲戒請求した事件です。カバルス氏は、ベルナス弁護士が依頼人ラモン・B・パスクアル・ジュニア氏のために提起した民事訴訟(不動産再移転請求訴訟)において、フォーラム・ショッピングに該当する行為があったと主張しました。
具体的には、パスクアル氏は民事訴訟提起の数日前に、NBIに対して偽造罪の告訴状を提出していました。カバルス氏は、このNBIへの告訴が、後の民事訴訟と実質的に同一の訴訟原因に基づくものであり、フォーラム・ショッピングに該当すると主張しました。さらに、民事訴訟の訴状に添付された宣誓供述書において、パスクアル氏が「同一の争点を争う他の訴訟を提起していない」と虚偽の陳述をしたことも問題視しました。
カバルス氏は、ベルナス弁護士がこのような行為を主導・扇動したとして、弁護士倫理違反を理由に懲戒を求めました。カバルス氏は、ベルナス弁護士の行為が弁護士職務綱紀(Code of Professional Responsibility)のCanon 1, Rule 1.01, 1.02、Canon 3, 3.01、Canon 10に違反すると主張しました。
一方、ベルナス弁護士は、NBIへの告訴は単なる事実調査の依頼であり、訴訟提起とは性質が異なると反論しました。また、刑事告訴と民事訴訟は訴訟原因と目的が異なり、フォーラム・ショッピングには該当しないと主張しました。ベルナス弁護士は、フォーラム・ショッピングが成立するためには、複数の法廷で同一の救済が求められている必要があると強調しました。
最高裁判所の判断:NBIは「法廷」ではない
最高裁判所は、本件において、NBIへの告訴はフォーラム・ショッピングに該当しないと判断し、カバルス氏の懲戒請求を棄却しました。最高裁判所は、その理由として、NBIの法的性質と機能を詳細に検討しました。
最高裁判所は、まず、NBIの機能はAct No. 157によって定められていることを指摘しました。Act No. 157第1条は、NBIの機能を以下のように規定しています。
「第1条 司法省に国家捜査局を設置し、次の機能を付与する。
(a) フィリピンの法律に違反する犯罪その他の違法行為の捜査を、自らのイニシアチブに基づき、かつ公共の利益が必要とする場合に行うこと。
(b) 犯罪その他の違法行為の捜査または発見において、適切な要請があった場合には支援を行うこと。
(c) フィリピンの検察機関および法執行機関の利益および利用のために、犯罪およびその他の情報の全国的な情報交換所として機能すること。犯罪による有罪判決を受けていないすべての者の身元記録、識別記号、特徴、およびすべての銃器の所有権または所持に関する記録、ならびにそこから発射された弾丸の記録を含む。
(d) すべての検察官および法執行官ならびに政府機関および裁判所に対し、要請に応じて技術支援を行うこと。
(e) 政府が利害関係を有する行政事件または民事事件の捜査において、適切な要請があった場合には、そのサービスを提供すること。
(f) 市町村の警察官の代表者に対し、その上司の要請に応じて、犯罪捜査および発見の効果的な方法に関する指導および訓練を行い、職務遂行における効率性を高めること。
(g) 最新の科学犯罪研究所を設立および維持し、犯罪捜査における科学的知識の進歩に関する研究を行うこと。
(h) 司法長官が随時割り当てるその他の関連機能を実行すること。」
最高裁判所は、この規定に基づき、NBIは単なる捜査機関であり、司法権または準司法権限を持たないと判断しました。NBIは、当事者間の紛争を聴取・決定し、拘束力のある命令や判決を下す機関ではないため、フォーラム・ショッピングを禁止するCircular No. 28-91などが想定する「法廷」には該当しないと結論付けました。
最高裁判所は、判決の中で次のように述べています。
「Circular No. 28-91、Revised Circular No. 28-91、およびAdministrative Circular No. 04-94で言及されている裁判所、法廷、および機関は、司法権または準司法権限を与えられた機関、および反対当事者間の紛争を聴取および決定するだけでなく、拘束力のある命令または判決を下す機関である。R.A. 157が簡潔に述べているように、NBIは司法機能または準司法機能を実行していない。したがって、NBIは、訴訟または手続きを審理したり、宣言的またはその他の救済を付与したりできる、規則が想定する法廷には該当しない。」
この判決は、フォーラム・ショッピングの概念を解釈する上で重要な指針となります。NBIのような捜査機関への告訴は、たとえその内容が後の民事訴訟と関連していても、原則としてフォーラム・ショッピングには該当しないということです。弁護士は、この判例を参考に、訴訟戦略を立てる際に、NBIなどの捜査機関の活用を検討することができます。
実務上のポイント
本判例から得られる実務上の教訓は以下の通りです。
- NBIなどの捜査機関への告訴は、その後の民事訴訟提起と併存しても、原則としてフォーラム・ショッピングには該当しない。
- フォーラム・ショッピングが成立するためには、複数の法廷で同一の救済が求められている必要がある。NBIは司法権限を持たないため、「法廷」には該当しない。
- 弁護士は、訴訟戦略を立てる際に、NBIなどの捜査機関の活用を検討することができる。特に、事実関係の早期解明や証拠収集にNBIの捜査能力を活用することは有効な手段となる。
- ただし、NBIへの告訴が、単なる嫌がらせや訴訟妨害を目的とする場合、または虚偽の告訴である場合は、弁護士倫理上の問題や不法行為責任が生じる可能性があるため注意が必要である。
- 訴状の宣誓供述書には、真実を正確に記載することが重要である。NBIへの告訴の事実を隠蔽することは、虚偽記載とみなされる可能性がある。
キーレッスン
- NBIへの告訴はフォーラム・ショッピングではない:NBIは司法機関ではないため、その利用は原則としてフォーラム・ショッピングに該当しません。
- 訴訟戦略の柔軟性:弁護士は、NBI等の捜査機関を訴訟戦略に組み込むことが可能です。
- 誠実な訴訟遂行:訴状の宣誓供述書には真実を記載し、訴訟制度を濫用しないことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: NBIに告訴した場合、必ず民事訴訟も起こさなければならないのですか?
A1: いいえ、NBIへの告訴は、必ずしも民事訴訟の提起を義務付けるものではありません。NBIの捜査結果や証拠収集の状況、事件の性質などを総合的に判断して、民事訴訟を提起するかどうかを決定することができます。
Q2: NBIへの告訴と民事訴訟を同時に進めることはできますか?
A2: はい、可能です。NBIへの告訴と民事訴訟は、訴訟原因と目的が異なるため、同時に進めることができます。ただし、訴訟戦略としては、NBIの捜査結果を民事訴訟に活用するなど、両手続きを連携させることを検討すべきでしょう。
Q3: NBI以外にも、フォーラム・ショッピングに該当しない捜査機関はありますか?
A3: はい、警察など、司法権限を持たない捜査機関への告訴や捜査依頼は、原則としてフォーラム・ショッピングには該当しません。重要なのは、利用する機関が司法権限を持つ「法廷」に該当するかどうかです。
Q4: フォーラム・ショッピングとみなされると、どのような不利益がありますか?
A4: フォーラム・ショッピングとみなされた場合、後から提起した訴訟が却下される可能性があります。また、弁護士がフォーラム・ショッピングを主導した場合、懲戒処分の対象となることもあります。
Q5: フォーラム・ショッピングかどうか判断に迷う場合は、どうすればよいですか?
A5: フォーラム・ショッピングの判断は、事案によって複雑になる場合があります。判断に迷う場合は、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
ASG Lawは、フィリピン法務に精通した専門家集団です。フォーラム・ショッピングに関するご相談はもちろん、訴訟戦略、企業法務、国際取引など、幅広い分野でリーガルサービスを提供しております。複雑な法律問題でお困りの際は、お気軽にご連絡ください。お問い合わせは、konnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ からどうぞ。ASG Lawと共に、法的課題を解決し、ビジネスを成功に導きましょう。