本判決は、海上労働者の死亡給付請求に関する重要な判例であり、雇用契約終了後に発生した死亡の補償要件について明確化しています。最高裁判所は、雇用契約終了後の死亡が補償されるためには、労働者の業務が特定の疾病のリスクを高め、その疾病が業務に起因することを立証する責任が請求者にあることを改めて確認しました。本判決は、フィリピンの海上労働者の権利と保護に直接影響を与えるものであり、雇用主と労働者の双方に重要な指針を提供します。
海上勤務と肝細胞がん:業務起因性の立証は誰が?
本件は、海上労働者であった Rex Miguelito Albarracin (以下「Albarracin」) の妻 Daylinda Albarracin (以下「請求者」) が、夫の死亡に関し、Philippine Transworld Shipping Corp. (以下「Transworld」) 等を相手取り、死亡給付、医療費、弁護士費用を請求した訴訟です。Albarracin は、Transworld の顧客である Unix Lin Pte. Ltd. のタンカー船 M/T Eastern Neptune に二等航海士として乗船していました。雇用契約期間は9か月で、2006年9月5日に開始されました。雇用前には、Albarracin は厳格な健康診断を受けましたが、心電図に異常が見られたにもかかわらず、「海上勤務に適合」と判断されました。契約満了後、Albarracin はフィリピンに帰国し、再雇用を希望しましたが、2007年7月の健康診断でB型肝炎と肝細胞がん (HCC) の疑いが判明しました。2008年3月31日、Albarracin はHCCにより死亡しました。
請求者は、Albarracin の仕事が常に精神的・肉体的ストレスにさらされ、有害なガスや化学物質にさらされたことがHCCの発症に繋がったと主張しました。一方、Transworld らは、Albarracin が勤務中に病気を訴えたことはなく、帰国後の健康診断も受けていないと反論しました。労働仲裁官は請求を棄却しましたが、国家労働関係委員会 (NLRC) はこれを覆し、Albarracin の死亡は業務に起因すると判断しました。しかし、控訴院はNLRCの決定を取り消し、労働仲裁官の決定を復活させました。控訴院は、HCCは通常、ウイルス性肝炎または肝硬変によって発症し、Albarracin の場合はB型肝炎に関連したHCCであったため、業務との関連性はないと判断しました。争点となったのは、Albarracin のHCCが業務に起因するか否か、そして請求者に補償を受ける権利があるか否かでした。
最高裁判所は、本件において、控訴院の判断を支持し、請求を棄却しました。その判断の根拠として、まず、フィリピン海外雇用庁標準雇用契約 (POEA-SEC) に基づく死亡給付の要件を詳細に検討しました。POEA-SEC Section 20 (A) では、死亡給付を受けるためには、海上労働者が契約期間中に業務に関連した死亡または疾病に苦しむ必要があると規定されています。しかし、Albarracin の死亡は契約期間終了後であったため、この要件を満たしていません。
次に、POEA-SEC Section 32 (A) に基づく補償の可能性を検討しました。この条項は、雇用契約終了後の死亡でも、一定の要件を満たせば補償が認められる場合を規定しています。その要件とは、(1) 労働者の業務が特定の疾病のリスクを伴うものであり、(2) 疾病がそのリスクへの曝露の結果として発症し、(3) 疾病が曝露期間内に発症し、(4) 労働者に著しい過失がないことです。しかし、最高裁判所は、請求者がこれらの要件を満たすための十分な証拠を提出していないと判断しました。
裁判所は、Albarracin がM/T Eastern Neptune 乗船中に病気を患ったことを示す証拠がなく、帰国後の健康診断も受けていない点を指摘しました。また、Albarracin の業務が具体的にどのような有害物質への曝露を伴っていたのか、またそれがHCCの発症にどのように影響したのかを示す証拠も不足していました。請求者は、Albarracin のHCCが非ウイルス性の要因によって引き起こされた可能性を主張しましたが、これを裏付ける専門家の証言や具体的な証拠はありませんでした。これらの点を総合的に考慮し、最高裁判所は、請求者がHCCと業務との関連性を立証する責任を果たせなかったと結論付けました。
本判決は、海上労働者の死亡給付請求において、業務起因性の立証責任が請求者側にあることを改めて確認した点で重要です。たとえ疾病がPOEA-SECに明示的に列挙されていなくても、請求者は、(1) 業務内容、(2) 疾病のリスク、(3) リスクへの曝露と疾病の発症との因果関係を、十分な証拠をもって立証する必要があります。最高裁判所は、請求者の主張を支持するためには、推測や憶測ではなく、具体的な証拠に基づいた判断が必要であることを強調しました。
FAQs
この訴訟の主な争点は何でしたか? | 本訴訟の主な争点は、亡くなった海上労働者である Albarracin の肝細胞がん(HCC)が業務に起因するか否か、そしてその妻である請求者が死亡給付金を受け取る権利があるか否かでした。 |
Albarracin はいつ、どのような病気で亡くなりましたか? | Albarracin は 2008 年 3 月 31 日に肝細胞がん(HCC)により死亡しました。彼は、雇用契約期間終了後、約10ヶ月後に亡くなっています。 |
最高裁判所はなぜ請求を棄却したのですか? | 最高裁判所は、Albarracin のHCCが業務に起因するという十分な証拠が提出されなかったため、請求を棄却しました。請求者は、業務とHCCとの因果関係を立証する責任を果たせませんでした。 |
海上労働者の死亡給付金を受け取るための要件は何ですか? | POEA-SEC Section 20 (A) に基づき、死亡給付金を受け取るためには、海上労働者が契約期間中に業務に関連した死亡または疾病に苦しむ必要があります。 |
契約期間終了後の死亡でも補償される場合はありますか? | はい、POEA-SEC Section 32 (A) に基づき、一定の要件を満たせば補償される場合があります。労働者の業務が疾病のリスクを伴い、その疾病が業務に起因することを立証する必要があります。 |
請求者はどのような証拠を提出する必要がありましたか? | 請求者は、Albarracin の業務内容、HCCのリスク、そして業務への曝露とHCCの発症との因果関係を示す十分な証拠を提出する必要がありました。 |
本判決から得られる教訓は何ですか? | 本判決は、海上労働者の死亡給付請求において、請求者側が業務起因性を立証する責任を負うことを明確にしました。十分な証拠に基づいて主張を裏付けることが重要です。 |
本判決はフィリピンの海上労働者の権利にどのような影響を与えますか? | 本判決は、フィリピンの海上労働者の権利と保護に関する重要な判例となり、雇用主と労働者の双方に死亡給付請求の要件について明確な指針を提供します。 |
本判決は、海上労働者の死亡給付請求における立証責任の重要性を示唆しています。同様の状況に直面している個人は、法的助言を求めることが重要です。
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Disclaimer: This analysis is provided for informational purposes only and does not constitute legal advice. For specific legal guidance tailored to your situation, please consult with a qualified attorney.
Source: DAYLINDA ALBARRACIN VS. PHILIPPINE TRANSWORLD SHIPPING CORP., G.R. No. 210791, November 19, 2018