本判決では、船員が業務中に負傷し、帰国後3日以内に雇用主に報告した場合、雇用主は船員を会社の医療機関に紹介する義務を負うことが確認されました。この義務を怠った場合、雇用主は船員の障害給付請求を拒否することができなくなります。本判決は、船員の権利を保護し、雇用主がその義務を履行することを求める重要な判例となります。
事故報告後の企業の不作為:船員への医療支援義務の履行
本件は、船員のセレスティーノ・M・ジュニオが太平洋海洋警備株式会社(Pacific Ocean Manning, Inc.)に対して提起した、障害給付の請求に関するものです。ジュニオは、勤務中に左目を負傷し、その後意識を失いました。帰国後、彼は雇用主に医療支援を求めましたが、拒否されました。裁判所は、ジュニオが帰国後3日以内に報告したにもかかわらず、雇用主が彼を会社の医療機関に紹介しなかったことは、雇用主の義務違反であると判断しました。これは、船員の権利を擁護し、海運業界における公正な労働慣行を促進する上で重要な意味を持ちます。
本件の争点は、ジュニオが障害給付を受ける資格があるかどうかでした。彼は雇用主に報告し、医療支援を求めたと主張しましたが、雇用主はこれを否定しました。フィリピン海外雇用庁(POEA)の標準雇用契約(SEC)第20条A項は、船員が業務に関連する負傷または疾病を負った場合、雇用主は医療支援を提供し、傷病手当を支払う義務を負うと定めています。同条項はまた、船員に対し、帰国後3労働日以内に会社の指定医療機関で診察を受けることを義務付けていますが、身体的な理由でそれができない場合は、同期間内に書面で通知することで、その義務を履行したとみなされます。
この義務は、相互的なものです。つまり、船員には、帰国後3労働日以内に診察を受ける義務がある一方で、雇用主には、船員に対して有意義かつタイムリーな診察を実施する義務があります。最高裁判所は、過去の判例で、船員が雇用主に報告したにもかかわらず、会社の指定医療機関に紹介されなかった場合、その船員の主張をより重視するべきであるとの判断を下しています。
会社指定医師による評価がなければ、船員が異議を唱えるものはなく、これにより、船員は完全かつ永久的な障害給付を受ける資格があります。本件では、雇用主は、ジュニオが帰国後2日以内に事務所に報告したにもかかわらず、彼を会社指定医師に紹介しませんでした。雇用主は、ジュニオが契約満了のために下船したと主張していますが、彼らはジュニオの医療記録を保有しており、彼の健康状態を知ることができました。
したがって、本件では、ジュニオの医療給付を拒否することはできません。会社指定医師による事後雇用診察がなかったとしても、ジュニオの障害給付と傷病手当の請求を妨げることはできません。本件において重要なことは、ジュニオが下船した理由が契約の満了ではなく、医療上の理由であったということです。彼の契約期間が満了していなかったことからも、それが明らかです。
さらに、彼の身体状態から、彼が負傷または病気によって労働不能になったことは明らかです。本件の場合、会社指定医師による評価がなかったため、ジュニオの病気が業務に関連しているかどうかを判断する問題は存在しません。POEA-SECに基づく手続きの履行は、会社指定医師が、120日または240日の期間満了前に、船員の労働能力または不能に関する有効な評価を示すことができたことを前提としています。会社指定医師による医学的評価がなかったため、ジュニオは自身のかかりつけ医の意見を求める義務はなく、帰国日から120日間の期間満了日をもって、完全かつ永久的な障害者とみなされます。最高裁判所は、会社指定医師からの有効な証明書がない場合、船員には異議を唱えるものがなく、法律が介入して彼の障害を完全かつ永久的なものと決定的に見なすという判例を確立しています。
判決では、ジュニオが完全かつ永久的な障害給付、傷病手当、弁護士費用を受け取る権利があると認められました。本件は、船員の権利を保護し、雇用主がその義務を履行することを求める重要な判例となります。
FAQs
本件の主要な問題は何でしたか? | 本件の主要な問題は、船員が業務中に負傷し、帰国後3日以内に雇用主に報告した場合、雇用主がその船員を会社の医療機関に紹介する義務があるかどうかでした。裁判所は、雇用主が紹介義務を負うことを確認しました。 |
POEA-SECとは何ですか? | POEA-SECとは、フィリピン海外雇用庁(POEA)が定める標準雇用契約(Standard Employment Contract)のことで、海外で働くフィリピン人船員の権利と義務を定めています。 |
3日以内の報告義務とは何ですか? | 3日以内の報告義務とは、POEA-SECに基づき、船員が負傷または疾病を負った場合、帰国後3労働日以内に雇用主に報告しなければならないという義務のことです。 |
会社指定医師による診察を受ける義務はありますか? | POEA-SECに基づき、船員は帰国後3労働日以内に会社の指定医療機関で診察を受ける義務がありますが、身体的な理由でそれができない場合は、同期間内に書面で通知することで、その義務を履行したとみなされます。 |
雇用主が会社指定医師による診察を拒否した場合、どうなりますか? | 雇用主が正当な理由なく会社指定医師による診察を拒否した場合、船員は、雇用主の同意なしに、自ら医師の診察を受けることができます。 |
本件の判決は、今後の船員の権利にどのような影響を与えますか? | 本件の判決は、今後の船員の権利を保護し、雇用主がその義務を履行することを求める上で重要な判例となります。 |
障害給付を受けるための条件は何ですか? | 障害給付を受けるためには、船員が業務に関連する負傷または疾病を負い、それによって労働不能になったことが証明される必要があります。 |
弁護士費用は誰が負担しますか? | 船員が障害給付を請求するために弁護士を雇った場合、その弁護士費用は、原則として雇用主が負担します。 |
本判決は、船員が海外で働く際に、自身の権利を認識し、適切に行動するための重要な指針となります。海外で働くすべての労働者が、安心して働ける環境が実現することを願います。
本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Law(contact)またはメール(frontdesk@asglawpartners.com)にてご連絡ください。
免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的助言については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:セレスティーノ・M・ジュニオ対太平洋海洋警備株式会社, G.R No. 220657, 2022年3月16日