控訴審で覆されても、復職命令が出た期間の賃金は支払われるべき
G.R. No. 168501, 2011年1月31日
ISLRIZ TRADING/ VICTOR HUGO LU 対 EFREN CAPADAら
不当解雇で訴えられた場合、労働審判官は従業員の復職を命じることがあります。この命令は控訴中であっても直ちに執行されるべきものですが、その後、全国労働関係委員会(NLRC)によって覆されることがあります。しかし、最高裁判所は、この場合でも、雇用主はNLRCの決定までの一時的な期間の賃金を支払う義務があるという一貫した見解を改めて示しました。
背景
ISLRIZ Trading社とそのオーナーであるVictor Hugo Lu氏に対し、9人の従業員(運転手と助手)が不当解雇の訴えを起こしました。労働審判官は従業員の訴えを認め、復職と未払い賃金の支払いを命じましたが、雇用主はNLRCに控訴。NLRCは労働審判官の決定を覆し、復職は認めたものの、未払い賃金の支払いは認めませんでした。しかし、最高裁判所は、控訴期間中の賃金支払い義務を巡る争点について判断を下すことになりました。
法的根拠:労働法第223条
この判決の核心となるのは、労働法第223条3項です。この条項は、労働審判官の復職命令が控訴中であっても直ちに執行されるべきであることを定めています。条文は以下の通りです。
「いかなる場合においても、解雇または離職させられた従業員を復職させる労働審判官の決定は、復職の側面に関する限り、控訴中であっても直ちに執行可能とする。従業員は、解雇または離職前の同一の条件で職場復帰を認められるか、または、雇用主の選択により、単に給与台帳に復職させるものとする。雇用主による保証金の供託は、ここに規定する復職の執行を停止させるものではない。」
この条文は、解雇された従業員を保護し、不当解雇からの迅速な救済を目的としています。復職命令の即時執行力は、従業員が控訴期間中に収入を失うことを防ぐための重要なセーフティネットです。最高裁判所は、過去の判例(Garcia v. Philippine Airlines Inc.など)を引用し、この原則を再確認しました。
最高裁判所の判断:Garcia判例の二段階テスト
最高裁判所は、Garcia v. Philippine Airlines Inc.判決で確立された「二段階テスト」を本件に適用しました。このテストは、控訴期間中の賃金請求が認められない例外的なケースを判断するためのものです。
- 第一段階:遅延の有無
労働審判官の復職命令が、NLRCによって覆される前に執行されたかどうか。本件では、復職命令は執行されず、遅延があったと認められました。 - 第二段階:遅延の正当性
遅延が雇用主の正当な理由のない行為または不作為によるものかどうか。本件では、雇用主は「弁護士に相談する必要があった」という曖昧な理由を述べましたが、最高裁判所はこれを正当な理由とは認めませんでした。
最高裁判所は、ISLRIZ Trading社が経営破綻などの特別な状況になく、復職命令を履行しない正当な理由がなかったと判断しました。したがって、従業員は控訴期間中の賃金を請求する権利があると結論付けました。
「結論として、回答者らは、労働審判官の復職命令が控訴中であり、NLRCがそれを覆すまでの期間の、未払い賃金を回収する権利を有する。なぜなら、請願者が回答者らを実際に復職させなかった、または給与台帳に復職させなかったのは、請願者の復職を拒否する正当性のない行為によるものであったからである。」
– 最高裁判所判決より
実務上の影響と教訓
この判決は、フィリピンの労働法における復職命令の執行と賃金支払いの原則を明確にしました。雇用主は、労働審判官から復職命令を受けた場合、控訴中であっても速やかに命令を履行する必要があります。履行を遅らせる場合、正当な理由がない限り、控訴審で命令が覆されても、控訴期間中の賃金を支払う義務を負うことになります。
重要な教訓
- 復職命令の即時性: 労働審判官の復職命令は、控訴中であっても直ちに執行されるべきです。
- 賃金支払い義務: 雇用主は、復職命令が覆されるまでの期間の賃金を支払う義務があります。
- 正当な理由の必要性: 復職命令の履行遅延が正当化されるのは、経営破綻など、非常に限定的な状況に限られます。
- 従業員保護の原則: フィリピンの労働法は、不当解雇から従業員を保護することを重視しています。
よくある質問(FAQ)
Q1: 労働審判官の復職命令は、控訴されたらすぐに執行されなくなるのですか?
いいえ、労働法第223条により、復職命令は控訴中であっても直ちに執行されるべきです。雇用主は、従業員を職場に復帰させるか、給与台帳に復帰させる必要があります。
Q2: NLRCが労働審判官の復職命令を覆した場合、控訴期間中の賃金は支払われないのですか?
原則として、支払われるべきです。ただし、Garcia v. Philippine Airlines Inc.判決の二段階テストにより、雇用主に正当な理由がある場合は例外となります。
Q3: どのような場合に、復職命令の履行遅延が「正当な理由」と認められますか?
判例では、企業の更生手続き中であるなど、非常に限定的な状況が挙げられています。単に「弁護士に相談する必要があった」といった理由は、正当な理由とは認められません。
Q4: 雇用主が復職命令を履行しない場合、従業員はどうすればよいですか?
労働審判官に執行を申し立てることができます。また、弁護士に相談し、法的アドバイスを受けることをお勧めします。
Q5: この判決は、雇用主にとってどのような意味を持ちますか?
雇用主は、労働審判官からの復職命令を真摯に受け止め、速やかに履行する必要があります。正当な理由なく履行を遅らせると、控訴審で命令が覆されても、控訴期間中の賃金を支払う義務を負うリスクがあります。
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