夫婦財産は結婚中に取得したという証明が必要:フランシスコ対控訴裁判所事件
G.R. No. 102330, 1998年11月25日
導入
夫婦が離婚や死別を経験する際、財産分与はしばしば紛争の種となります。フィリピンでは、夫婦財産制は法律で厳格に定められており、共有財産と固有財産の区別は非常に重要です。この最高裁判所の判決は、夫婦財産が共有財産と推定されるための前提条件と、その推定を覆すための証拠の必要性について明確にしています。特に、結婚中に財産を取得したという証明が不可欠であることを強調しており、これは多くの夫婦にとって重要な教訓となります。
法律の背景:夫婦財産制と共有財産の推定
フィリピンの旧民法(本件に適用)では、夫婦財産制として夫婦共有財産制を採用していました。これは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた財産を共有財産とし、夫婦それぞれが婚姻前から所有していた財産や、婚姻中に相続や贈与によって取得した財産を固有財産とする制度です。旧民法160条は、「婚姻中に取得したすべての財産は、夫婦の共有財産に属するものと推定される。ただし、夫または妻のいずれかに専属的に帰属することが証明された場合はこの限りでない」と規定しています。この規定は、共有財産の推定を定めていますが、この推定が適用されるためには、まず「婚姻中に財産を取得した」という事実を証明する必要があります。重要なのは、この推定は絶対的なものではなく、反証が許されるということです。つまり、夫婦の一方が、問題となっている財産が自己の固有財産であることを証明できれば、共有財産の推定は覆されます。
例えば、夫が結婚前に購入した土地の上に、結婚後に夫婦の資金で家を建てた場合、土地は夫の固有財産ですが、家は共有財産となる可能性があります。しかし、もし夫が、家の建設費用も自身の固有財産から支出したことを証明できれば、家も夫の固有財産とみなされる可能性があります。このように、共有財産の推定は、事実関係と証拠によって柔軟に判断されるべきものです。
本件判決で重要な役割を果たした旧民法148条は、固有財産の範囲を定めています。具体的には、以下の財産が夫婦それぞれの固有財産とされます。
「第148条 次のものは、各配偶者の固有財産とする。
(1) 婚姻に際し、自己の所有物として持ち込んだもの
(2) 婚姻中に、無償の権原によって取得したもの
(3) 贖回権の行使または夫婦の一方のみに属する他の財産との交換によって取得したもの
(4) 妻または夫の固有の金銭で購入したもの」
無償の権原による取得とは、相続、遺贈、贈与などを指します。つまり、婚姻中に相続によって取得した財産は、たとえ婚姻中に取得したものであっても、取得した配偶者の固有財産となります。
事件の経緯:フランシスコ対控訴裁判所事件
本件は、テレシータ・C・フランシスコ(原告、以下「妻」)が、夫であるユセビオ・フランシスコ(被告、以下「夫」)とその先妻の子であるコンチータ・エヴァンゲリスタら(被告ら)を相手取り、財産の管理権を争った事件です。妻は、夫との婚姻期間中に取得した財産(店舗、住宅、アパートなど)は共有財産であると主張し、夫の病気を理由に自身がこれらの財産の管理者となるべきだと訴えました。また、夫が先妻の子であるコンチータに与えた財産管理の委任状の無効を求めました。一方、被告らは、問題となっている財産は夫が婚姻前に取得した固有財産であると反論しました。
地方裁判所は、妻の訴えを退け、問題の財産は夫の固有財産であり、夫が管理権を有すると判断しました。妻はこれを不服として控訴しましたが、控訴裁判所も地方裁判所の判決を支持しました。そのため、妻は最高裁判所に上告しました。
最高裁判所における妻の主な主張は以下の2点でした。
- 控訴裁判所は、旧民法160条(共有財産の推定)と158条(共有財産に帰属する改良)を誤って適用した。これらの条文は、家族法によって既に廃止されている。
- 控訴裁判所は、家族法124条(共有財産の管理)を適用すべきであった。
しかし、最高裁判所は、本件は旧民法が適用されるべきであり、問題の財産が共有財産であるという妻の主張には根拠がないと判断しました。裁判所の判断のポイントは以下の通りです。
- 共有財産の推定の前提条件:旧民法160条の共有財産の推定を適用するためには、まず問題の財産が婚姻期間中に取得されたことを証明する必要がある。妻はこれを証明できなかった。
- 土地の固有財産性:コリャス・クルス通りの土地は、夫が両親から相続したものであり、婚姻前から夫が所有していた。相続による取得は無償の権原による取得であり、旧民法148条(2)により固有財産となる。
- 建物、アパート、店舗の証明不足:妻は、建物の建築許可証や店舗の営業許可証を証拠として提出したが、これらの書類は、建物や店舗が婚姻期間中に取得されたことを証明するものではない。また、これらの財産が共有財産から支出された費用で建設・設立されたという証拠もなかった。
- サン・イシドロの土地:「ユセビオ・フランシスコ、妻テレシータ・フランシスコ」名義で登記されていることは、共有財産であることの証明にはならない。登記は権利を創設するものではなく、既存の権利を確認するに過ぎない。「妻」という記述は、夫の身分を示す単なる説明に過ぎない。
裁判所は、妻が共有財産であることを証明する十分な証拠を提出できなかったと結論付け、控訴裁判所の判決を支持し、妻の上告を棄却しました。裁判所は判決の中で、重要な法的原則を再度強調しました。「共有財産の推定を主張する者は、まず問題の財産が婚姻期間中に取得されたことを証明しなければならない。」
最高裁判所は、判決の中で次のように述べています。
「婚姻中のすべての財産は共有財産に属すると推定されるという旧民法160条の推定を適用するためには、まず問題の財産が婚姻中に取得されたことを証明する必要がある…婚姻期間中の取得の証明は、夫婦共有財産制の推定が適用されるための必要条件である。」
さらに、裁判所は、妻が提出した証拠が不十分であることを指摘し、次のように述べています。
「…原告である上訴人[本件の原告]が店舗の営業許可証(証拠「F-3」、証拠「G」、記録44-47頁)のライセンシーであるとか、建物の建築許可証の申請者であると仮定したとしても、これらの改良がユセビオ・フランシスコとの婚姻中に取得されたことを立証することにはならない。特に、彼女の証拠(「D-1」、「E」、「E-1」、「T」、「T-1」、「T-2」、「U」、「U-1」、「U-2」、記録38-40頁、285-290頁、1989年1月17日TSN、6-7頁)は、ユセビオ・フランシスコを構造物の所有者としてすべて記述しており、彼女の主張とは正反対である(旧民法1431条、証拠に関する改正規則規則129条4項)。」
実務上の教訓
本判決は、フィリピンの夫婦財産制において非常に重要な教訓を与えてくれます。特に、以下の点は実務上重要です。
- 共有財産の推定には前提条件がある:共有財産の推定は自動的に適用されるものではなく、まず「婚姻中に財産を取得した」という事実を証明する必要があります。この証明責任は、共有財産であることを主張する側(通常は妻側)にあります。
- 証拠の重要性:共有財産の推定を覆すためには、明確かつ説得力のある証拠が必要です。単に名義が夫婦共同になっているとか、許可証が妻の名前で発行されているといった程度の証拠では不十分です。財産の取得時期、取得方法、資金源などを具体的に証明できる書類や証言を準備する必要があります。
- 固有財産の範囲:相続や贈与によって取得した財産は、たとえ婚姻中に取得したものであっても、固有財産となります。固有財産を共有財産と混同しないように注意が必要です。
- 財産管理:財産が固有財産であると認められた場合、その財産の管理権は原則として固有財産の所有者にあります。共有財産の場合は、夫婦共同で管理することになりますが、夫婦の一方が管理能力を欠く場合は、他方が管理権を単独で行使できる場合があります(家族法124条)。
主な教訓
- 夫婦財産が共有財産と推定されるためには、まずその財産が婚姻期間中に取得されたことを証明する必要がある。
- 共有財産の推定は、明確かつ説得力のある証拠によって覆すことができる。
- 相続や贈与によって取得した財産は、固有財産となる。
- 財産の性質(固有財産か共有財産か)によって、管理権の所在が異なる。
よくある質問(FAQ)
- 質問1:結婚前に夫が購入した土地の上に、結婚後に夫婦の資金で家を建てた場合、土地と家は誰のものになりますか?
回答1:土地は夫の固有財産、家は共有財産となる可能性があります。ただし、家の建設費用が夫の固有財産から支出されたことを証明できれば、家も夫の固有財産となる可能性があります。 - 質問2:妻が婚姻中に相続で得た財産は共有財産ですか?
回答2:いいえ、相続によって取得した財産は、婚姻中に取得したものであっても、妻の固有財産となります。 - 質問3:不動産登記が夫婦共同名義になっている場合、それは共有財産の証明になりますか?
回答3:いいえ、登記が夫婦共同名義になっているだけでは、共有財産の決定的な証明にはなりません。登記は権利を創設するものではなく、既存の権利を確認するに過ぎません。財産の取得時期や資金源などを証明する必要があります。 - 質問4:共有財産の管理は誰が行うのですか?
回答4:共有財産は原則として夫婦共同で管理します。ただし、夫婦の一方が管理能力を欠く場合は、他方が単独で管理権を行使できる場合があります(家族法124条)。 - 質問5:家族法は旧民法と何が違うのですか?
回答5:家族法は1988年8月3日に施行され、旧民法の夫婦財産制に関する規定を一部改正しました。家族法では、夫婦共有財産制に代わり、夫婦財産共有制が原則となりました。ただし、家族法は遡及適用されないため、家族法施行前に成立した婚姻関係には、原則として旧民法が適用されます。
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出典:最高裁判所電子図書館
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