選挙異議申立てもフォーラム・ショッピング防止規則の対象:フィリピン最高裁判所判決解説

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選挙異議申立てにもフォーラム・ショッピング防止規則は適用される:最高裁判所判例解説

[G.R. Nos. 117955-58, March 13, 1997] HERMINIGILDO TOMARONG, VENANCIO SUMAGANG, FRANCISCO MAGSAYO AND FEDERICO CUEVAS, PETITIONER, VS. HON. ANTONIO C. LUBGUBAN IN HIS CAPACITY AS PRESIDING JUDGE, 2ND MCTC OF LAZI, SIQUIJOR, AND ANTONIO BANGQUIAO, DEMETRIO LUMACAD, RICO TUMAPON AND FELIX TAMIAT, RESPONDENTS.

はじめに

選挙で敗れた候補者が異議申立てを行う際、手続き上の小さなミスが重大な結果を招くことがあります。本稿では、フィリピン最高裁判所の画期的な判決であるTomarong v. Lubguban事件を取り上げ、選挙異議申立てにおけるフォーラム・ショッピング防止規則の適用について詳しく解説します。この判決は、選挙事件であっても、裁判所規則を遵守することの重要性を改めて強調するものです。

2016年の大統領選挙後、選挙結果を不服とする異議申立てが数多く提起されました。しかし、その中には、手続き上の不備により門前払いされたケースも少なくありません。Tomarong事件は、まさにそのような事例の一つであり、選挙異議申立てを検討するすべての人々にとって重要な教訓を含んでいます。本稿を通じて、この判決の意義と実務上の注意点について理解を深めていきましょう。

法的背景:フォーラム・ショッピング防止規則とは

フォーラム・ショッピングとは、訴訟当事者が、有利な判決を得るために、複数の裁判所や行政機関に重複して訴えを提起する行為を指します。このような行為は、裁判制度の公正さを損ない、他の当事者の権利を侵害する可能性があります。そこで、フィリピン最高裁判所は、行政通達04-94号を発令し、フォーラム・ショッピングを防止するための規則を定めました。

行政通達04-94号は、訴状、申立書、申請書などの最初の訴訟書類を提出する際に、原告、申立人、申請人などの主要当事者に対し、宣誓供述書による証明書(certification of non-forum shopping)の添付を義務付けています。この証明書には、以下の事項を記載する必要があります。

  • 同一の争点に関する他の訴訟または手続きを、最高裁判所、控訴裁判所、または他の裁判所や行政機関に提起していないこと。
  • 知る限り、最高裁判所、控訴裁判所、または他の裁判所や行政機関に、同一の争点に関する訴訟または手続きが係属していないこと。
  • 係属中または既に終結した訴訟または手続きがある場合は、その現状を記載すること。
  • 今後、類似の訴訟または手続きが提起されたり、係属したりしていることを知った場合、その事実を5日以内に裁判所または行政機関に報告すること。

この規則に違反した場合、訴状、申立書、申請書などの最初の訴訟書類は、相手方の申立てにより、審理を経て却下されることがあります。また、意図的かつ悪質なフォーラム・ショッピングを行った場合、即時却下の対象となり、さらに直接的な法廷侮辱罪に問われる可能性もあります。虚偽の証明書を提出した場合や、証明書の記載事項を遵守しなかった場合も、間接的な法廷侮辱罪に該当し、弁護士に対する懲戒処分や刑事訴追の対象となることがあります。

この規則は、裁判手続きの効率化と公正さを確保するために不可欠なものです。しかし、その適用範囲や解釈については、様々な議論があり、特に選挙事件への適用が問題となることがあります。

Tomarong v. Lubguban事件の詳細

Tomarong事件は、1994年5月11日に行われたバランガイ(最小行政区画)選挙に端を発します。エルミニギルド・トマロン氏、ベナンシオ・スマガン氏、フランシスコ・マグサヨ氏、フェデリコ・クエバス氏(以下、原告ら)は、シキホール州ラジのバランガイ長選挙に立候補しましたが、落選しました。原告らは、ラジ第2地方巡回裁判所(MCTC)に選挙異議申立てを提起しました。これに対し、当選した対立候補らは、原告らが訴状にフォーラム・ショッピング防止規則に基づく証明書を添付していないことを理由に、訴えの却下を求めました。

原告らは、選挙異議申立てにはフォーラム・ショッピング防止規則は適用されないと主張しましたが、裁判所は当初、対立候補らの主張を退け、審理を進める決定をしました。しかし、その後、裁判所は、法務長官に規則の適用に関する意見を求めることを提案し、法務長官は司法長官室(Court Administrator)に問い合わせるよう助言しました。司法長官室は、MCTCにおける選挙異議申立てにも証明書の添付が必要であるとの見解を示しました。

司法長官室の見解に基づき、MCTCは1994年10月6日、原告らの異議申立てを却下する命令を下しました。原告らは、この却下命令に対する再考を求めましたが、これもまた却下されました。原告らは、MCTCが最初の決定を覆し、異議申立てを却下したことは、重大な裁量権の濫用であるとして、規則65に基づく職権濫用訴訟を提起しました。原告らは、行政通達04-94号は、民事訴訟およびそれに伴う反訴、第三者訴訟などに限定して適用されると主張しました。選挙異議申立ては、民事訴訟とは異なり、特定の役職の選挙で有効票の多数を得た者を迅速に決定するための特別略式手続きであると主張しました。

さらに、原告らは、MCTCの選挙異議申立てに対する管轄は専属的であり、他の裁判所に移譲できないため、フォーラム・ショッピングは起こりえないと主張しました。他の裁判所、行政機関に異議申立てを提起しても、即座に却下されるため、規則が防止しようとしている「裁判所の伝染病」は起こりえないという論理でした。

しかし、最高裁判所は原告らの主張を認めませんでした。最高裁判所は、Loyola v. Court of Appeals事件を引用し、行政通達04-94号は選挙事件にも適用されると判示しました。最高裁判所は、通達には選挙事件を適用除外とする規定はなく、むしろ「最高裁判所および控訴裁判所以外のすべての裁判所および行政機関における訴状、申立書、申請書またはその他の最初の訴訟書類の提出において、厳格に遵守しなければならない」と明記されている点を指摘しました。法が区別していない場合、裁判所も区別すべきではないという法原則(Ubi lex non distinguit nec nos distinguere debemus)を適用しました。

また、MCTCが選挙異議申立てに対して専属管轄権を有しているため、証明書は不要であるという原告らの主張も退けました。最高裁判所は、当事者が誤って他の法的救済手段を利用したり、誤った裁判地に複数のMCTCに同一の選挙異議申立てを提起したり、MCTCの専属管轄権を知らずに地方裁判所(RTC)に誤って異議申立てを提起する可能性を指摘しました。

ただし、Loyola事件では、選挙異議申立て提起の翌日に証明書が提出されたことが、行政通達04-94号の実質的遵守と認められました。最高裁判所は、証明書の提出が選挙異議申立ての期間内であったことを考慮し、同時提出でなかったものの、規則の実質的遵守を認めたのです。

しかし、Tomarong事件では、証明書の提出が異議申立て提起から18日後であり、選挙異議申立ての期間も経過していたため、実質的遵守とは認められませんでした。最高裁判所は、規則の厳格な遵守は必須であり、正当な理由がない限り、その要件を無視することは許されないと強調しました。また、規則の不遵守を理由とする却下申立て後に証明書を提出しても、必ずしも実質的遵守とはならないとしました。さもなければ、規則の価値や効力が失われてしまうからです。

実務上の教訓

Tomarong v. Lubguban事件は、選挙異議申立てを含むすべての訴訟手続きにおいて、手続き規則を厳格に遵守することの重要性を改めて示しています。特に、フォーラム・ショッピング防止規則は、訴訟の初期段階で遵守すべき重要な要件であり、その不遵守は訴えの却下につながる可能性があります。

選挙異議申立てを検討する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 訴状には、必ずフォーラム・ショッピング防止規則に基づく証明書を添付すること。
  • 証明書は、訴状と同時に提出することが原則であるが、やむを得ない事情がある場合は、速やかに提出すること。
  • 証明書の内容は、正確かつ真実でなければならない。虚偽の記載や不遵守があった場合、法廷侮辱罪や刑事罰の対象となる可能性がある。
  • 選挙異議申立ての期間を厳守すること。証明書の提出が遅れた場合、選挙異議申立て自体が却下される可能性がある。

Tomarong事件の教訓は、手続き上の些細なミスが訴訟の結果を左右する可能性があるということです。選挙異議申立ては、有権者の意思を尊重し、公正な選挙を実現するための重要な手段ですが、手続き規則を遵守しなければ、その目的を達成することはできません。選挙事件に精通した弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることが不可欠です。

よくある質問(FAQ)

Q1: フォーラム・ショッピング防止規則は、どのような訴訟手続きに適用されますか?

A1: 行政通達04-94号は、「最高裁判所および控訴裁判所以外のすべての裁判所および行政機関における訴状、申立書、申請書またはその他の最初の訴訟書類」に適用されます。民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟、選挙事件など、広範な訴訟手続きが対象となります。

Q2: 選挙異議申立ての場合、証明書は必ず訴状と同時に提出しなければなりませんか?

A2: 原則として、訴状と同時に提出する必要があります。しかし、Loyola事件のように、選挙異議申立ての期間内であれば、翌日の提出でも実質的遵守と認められる場合があります。ただし、Tomarong事件のように、18日後の提出は遅すぎると判断されました。できる限り同時提出を心がけ、遅れる場合は速やかに提出し、正当な理由を説明する必要があります。

Q3: 証明書を提出しなかった場合、必ず訴えは却下されますか?

A3: 証明書を提出しなかった場合、または虚偽の証明書を提出した場合、訴えが却下される可能性があります。ただし、裁判所は、個別の事情を考慮し、裁量で実質的遵守を認める場合もあります。しかし、規則の厳格な遵守が原則であり、安易な期待は禁物です。

Q4: フォーラム・ショッピング防止規則に違反した場合、どのようなペナルティがありますか?

A4: 訴えの却下のほか、意図的かつ悪質なフォーラム・ショッピングを行った場合、法廷侮辱罪に問われる可能性があります。また、虚偽の証明書を提出した場合や、証明書の記載事項を遵守しなかった場合も、法廷侮辱罪に該当し、弁護士に対する懲戒処分や刑事訴追の対象となることがあります。

Q5: 選挙異議申立ての手続きについて、弁護士に相談する必要はありますか?

A5: 選挙異議申立ては、専門的な知識と経験を要する手続きです。手続き規則の遵守、証拠の収集、訴状の作成など、弁護士のサポートを受けることで、より確実に目的を達成できる可能性が高まります。選挙事件に精通した弁護士に相談することをお勧めします。

選挙訴訟、異議申立てでお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。当事務所は、選挙法務に精通した弁護士が、お客様の権利擁護を全力でサポートいたします。
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Source: Supreme Court E-Library

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