非営利団体も賃貸収入には課税、免税の厳格な要件と実務上の注意点
G.R. No. 124043, 1998年10月14日
はじめに
フィリピンには、社会福祉や教育、慈善活動を目的とする多くの非営利団体が存在します。これらの団体は、その活動を支えるために不動産を所有し、賃貸収入を得ている場合があります。しかし、そのような賃貸収入は、常に税金が免除されるとは限りません。今回の最高裁判所の判決は、非営利団体であっても、一定の条件下では賃貸収入が課税対象となることを明確にしました。本稿では、この判決を詳細に分析し、非営利団体が留意すべき点について解説します。
事件の概要
本件は、Young Men’s Christian Association of the Philippines, Inc.(YMCA)が所有する不動産の賃貸収入に対する課税の適否が争われた事例です。YMCAは、「福祉、教育、慈善活動を行う非営利法人」として設立されており、その活動は社会的に高く評価されています。しかし、内国歳入庁長官(CIR)は、YMCAの不動産賃貸収入に対し、所得税、源泉徴収税等の課税処分を行いました。YMCAはこれを不服として、税務裁判所(CTA)に提訴し、CTAはYMCAの主張を認め、課税処分を取り消しました。CIRは控訴裁判所(CA)に上訴しましたが、CAも当初はCIRの主張を一部認めつつも、再審理の結果、CTAの決定を支持しました。CIRはこれを不服として、最高裁判所に上訴しました。
法的背景:税法上の非課税規定と厳格解釈の原則
フィリピンの税法(内国歳入法典、NIRC)は、特定の非営利団体に対して、その活動から得られる収入を非課税とする規定を設けています。具体的には、NIRC第27条(現行法では第26条)において、社会福祉の促進のみを目的とする非営利の市民団体や、娯楽、レクリエーション、その他非営利目的のために組織・運営され、純利益が私的株主や会員の利益に帰属しないクラブなどが例示されています。これらの団体は、原則として所得税が免除されます。
しかし、同条項の最終段落には、「前項の規定にかかわらず、上記団体の財産(動産・不動産を問わず)または営利活動から生じるいかなる種類の収入も、その収入の処分方法に関わらず、本法典に基づき課税されるものとする」と規定されています。この最終段落は、非課税とされる団体であっても、その財産から得られる収入や営利活動から得られる収入は課税対象となることを意味しています。最高裁判所は、税法上の免税規定は厳格に解釈されるべきであり、納税者の主張が免税規定の文言から明確かつ明白に認められる場合にのみ、免税が認められるという原則を繰り返し判示しています。今回の判決も、この厳格解釈の原則に沿ったものです。
最高裁判所の判断:YMCAの賃貸収入は課税対象
最高裁判所は、まず、控訴裁判所が税務裁判所の事実認定を覆したというYMCAの主張を退けました。最高裁は、控訴裁判所は事実認定ではなく、税務裁判所の法的解釈を覆したに過ぎないと判断しました。その上で、最高裁は、NIRC第27条の最終段落の文言は明確であり、解釈の余地はないと指摘しました。同段落は、「財産からの収入」と「営利活動からの収入」を明確に区別しており、「営利活動から生じる収入」という文言が「財産からの収入」を修飾するものではないと解釈しました。したがって、YMCAの不動産賃貸収入は、その収入が非営利目的で使用されるとしても、課税対象となると結論付けました。
最高裁は、YMCAが憲法上の免税規定も根拠に免税を主張したことについても検討しました。YMCAは、憲法第6条第28条第3項および第14条第4条第3項に基づき、慈善団体および非営利教育機関は、財産税だけでなく、すべての収入源からの所得税も免除されると主張しました。しかし、最高裁は、憲法制定会議の議論や関連判例を引用し、憲法上の免税規定は財産税に限定されるものであり、所得税には適用されないと判断しました。また、YMCAが教育機関に該当するかどうかについても検討し、YMCAは教育法上の「教育機関」に該当しないと判断しました。さらに、YMCAが賃貸収入を教育目的のために実際に、直接的かつ排他的に使用しているという証拠も提出されていないことを指摘し、憲法上の免税規定に基づく免税も認められないとしました。
実務上の影響と教訓:非営利団体の税務戦略
今回の最高裁判決は、非営利団体が税務上の優遇措置を受けるためには、法的な要件を厳格に遵守する必要があることを改めて示しました。特に、非営利団体が不動産を所有し、賃貸収入を得ている場合には、その収入が課税対象となる可能性を十分に認識しておく必要があります。非営利団体が税務上の問題を未然に防ぐためには、以下の点に留意すべきです。
- 免税規定の正確な理解:関連する税法規定(NIRC第26条、憲法第6条第28条第3項、第14条第4条第3項など)を正確に理解し、自団体の活動が免税要件を満たすかどうかを慎重に検討する必要があります。
- 収入源の明確化:団体の収入源を明確にし、どの収入が免税対象となり、どの収入が課税対象となるのかを区分する必要があります。不動産賃貸収入は、原則として課税対象となることを前提に、税務戦略を検討する必要があります。
- 証拠書類の整備:免税を主張する場合には、免税要件を満たすことを証明するための証拠書類を十分に整備しておく必要があります。特に、収入が非営利目的で使用されていることを証明する書類は重要です。
- 税務専門家への相談:税務に関する専門的な知識がない場合には、税務専門家(税理士、弁護士など)に相談し、適切なアドバイスを受けることを推奨します。
重要なポイント
- 非営利団体であっても、不動産賃貸収入は原則として課税対象となる。
- 税法上の免税規定は厳格に解釈されるため、免税を主張するためには明確な法的根拠と証拠が必要。
- 憲法上の免税規定は財産税に限定され、所得税には適用されない。
- 非営利団体は、税務リスクを管理するために、税務専門家への相談を検討すべき。
よくある質問(FAQ)
- 質問1:非営利団体であれば、すべての収入が非課税になるのですか?
回答1:いいえ、非営利団体であっても、すべての収入が非課税になるわけではありません。税法上の免税規定は限定的であり、不動産賃貸収入や営利活動から得られる収入は、原則として課税対象となります。 - 質問2:賃貸収入を慈善活動に使えば、課税を免れることはできますか?
回答2:いいえ、今回の最高裁判決によれば、賃貸収入の使途に関わらず、NIRC第27条の最終段落の文言に基づき、課税対象となります。 - 質問3:どのような非営利団体が税法上の免税対象となりますか?
回答3:NIRC第26条には、免税対象となる団体の例として、社会福祉の促進のみを目的とする非営利の市民団体や、娯楽、レクリエーション、その他非営利目的のために組織・運営され、純利益が私的株主や会員の利益に帰属しないクラブなどが挙げられています。ただし、これらの団体であっても、財産からの収入や営利活動からの収入は課税対象となる場合があります。 - 質問4:憲法上の免税規定は、どのような税金に適用されますか?
回答4:憲法第6条第28条第3項および第14条第4条第3項の免税規定は、財産税に適用されるものであり、所得税には適用されません。 - 質問5:税務調査で否認されないためには、どのような対策が必要ですか?
回答5:税務調査で否認されないためには、日頃から適切な会計処理を行い、証拠書類を整備しておくことが重要です。また、税務専門家(税理士、弁護士など)に相談し、税務リスクを事前に評価し、適切な対策を講じることを推奨します。
税務に関するご相談は、フィリピン法務のエキスパート、ASG Lawにお任せください。本件のような税務に関する問題でお困りの際は、お気軽にkonnichiwa@asglawpartners.comまたはお問い合わせページよりご連絡ください。


Source: Supreme Court E-Library
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