訴訟におけるフォーラムショッピング防止認証:手続き上の厳格な遵守の重要性
[G.R. No. 154704, 2011年6月1日] ネリー・VDA・デ・フォルモソら対フィリピン国民銀行ら
はじめに
訴訟手続きにおいて、形式的な要件の遵守は、しばしば実体的な権利の実現を左右します。本稿で解説するネリー・VDA・デ・フォルモソ対フィリピン国民銀行事件は、フィリピンの裁判所が、訴訟におけるフォーラムショッピング防止認証の要件を厳格に解釈し、手続き上の不備を理由に訴えを却下した事例です。この判決は、原告が複数の場合、認証に全員が署名するか、署名しない者が署名者に委任状を与える必要があることを明確にしました。手続きの些細なミスが訴訟全体を無効にする可能性があることを示唆しており、フィリピンで訴訟を提起する際には、手続き規則の遵守が不可欠であることを改めて認識させるものです。
法的背景:フォーラムショッピング防止認証とは
フォーラムショッピングとは、原告が有利な判決を得るために、複数の裁判所や機関に同様の訴えを提起する行為を指します。これは、司法制度の公正さを損なうだけでなく、裁判所の資源を浪費する行為です。フィリピンの民事訴訟規則は、このようなフォーラムショッピングを防止するために、訴状や申立書に「フォーラムショッピング防止認証(Certification against Forum Shopping)」の添付を義務付けています(規則7、第5条)。
具体的には、原告または主要当事者は、宣誓の下に以下の事項を認証する必要があります。
- 同一の訴訟を他の裁判所、法廷、または準司法機関に提起していないこと。
- 知る限り、同様の訴訟が他の機関で係属していないこと。
- 今後、同様の訴訟が提起または係属していることを知った場合、5日以内に裁判所に報告すること。
この認証は、訴訟手続きの公正性と効率性を維持するために極めて重要です。認証が不備である場合、原則として訴えは却下される可能性があります。最高裁判所は、フォーラムショッピング防止認証の要件を厳格に解釈しており、些細な不備であっても訴えの却下を正当化するとしています。
本件で問題となったのは、複数の原告がいる場合に、フォーラムショッピング防止認証に全員が署名する必要があるか、という点でした。裁判所は、原則として全員署名が必要であるとしつつも、例外的に一部の署名で足りる場合があることを認めています。しかし、その例外が認められるためには、一定の要件を満たす必要があり、本件ではその要件が満たされていないと判断されました。
事件の経緯:フォルモソ一家対フィリピン国民銀行
フォルモソ一家は、フィリピン国民銀行(PNB)からの融資に関連する不動産を担保としていました。その後、一家はプリミティボ・マルカバ氏に不動産を売却し、マルカバ氏がPNBに融資残高を全額支払おうとしましたが、PNBはこれを受け取りを拒否しました。そのため、フォルモソ一家とマルカバ氏はPNBに対し、融資の受領と担保解除を求める訴訟を地方裁判所に提起しました。
地方裁判所は原告勝訴の判決を下しましたが、PNBはこれを不服として控訴しました。しかし、PNBの控訴は手続き上の不備により却下されました。その後、原告らは判決の救済を求める申立て(Petition for Relief from Judgment)を行いましたが、これも地方裁判所に却下されました。原告らは、この却下決定を不服として控訴裁判所にセルティオラリ申立て(Petition for Certiorari)を行いました。
控訴裁判所は、原告らのセルティオラリ申立てにおいて、フォーラムショッピング防止認証に原告の一人であるマルカバ氏しか署名していないことを問題視しました。裁判所は、原則として原告全員が署名する必要があり、本件では例外が認められる事情もないとして、申立てを却下しました。原告らはこれを不服として最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所は、控訴裁判所の判断を支持し、原告らの上訴を棄却しました。最高裁判所は、フォーラムショッピング防止認証の要件は厳格に解釈されるべきであり、本件では原告全員が署名していないため、手続き上の不備があると判断しました。また、原告らが主張する「実質的遵守」や「例外的な事情」も認められないとしました。
最高裁判所の判決からの引用:
「フォーラムショッピング防止認証は、訴訟手続きの不可欠な要件であり、その遵守は厳格に求められる。複数の原告がいる場合、原則として全員が認証に署名する必要がある。例外的に一部の署名で足りる場合もあるが、それは限定的な場合に限られる。」
「本件では、原告全員が共通の利益を有しているとは言えず、マルカバ氏が他の原告を代表して認証に署名することを正当化する事情もない。したがって、控訴裁判所が申立てを却下した判断は正当である。」
実務上の教訓と今後の影響
本判決は、フィリピンで訴訟を提起する際に、フォーラムショッピング防止認証の要件を厳格に遵守することの重要性を改めて示しました。特に、複数の原告がいる場合、以下の点に注意する必要があります。
- 原則として、フォーラムショッピング防止認証には原告全員が署名する必要があります。
- 原告の一人が代表して署名する場合、他の原告からの委任状(特別委任状、Special Power of Attorney)を添付する必要があります。
- 例外的に、原告全員が共通の利益を有し、訴訟の目的が共通である場合に限り、一部の署名で足りる場合があります。ただし、この例外が認められるかどうかは裁判所の判断に委ねられます。
弁護士は、訴訟を提起する前に、クライアントに対し、フォーラムショッピング防止認証の要件を十分に説明し、適切な認証書を作成する必要があります。特に、複数のクライアントがいる場合は、全員に署名させるか、委任状を取得するなど、手続き上の不備がないように注意深く対応する必要があります。
本判決は、手続き規則の遵守を軽視すると、実体的な権利が認められない可能性があることを示唆しています。弁護士および訴訟当事者は、手続き規則を十分に理解し、厳格に遵守することで、訴訟の目的を達成するために最大限の努力を払うべきです。
重要なポイント
- フォーラムショッピング防止認証は、訴訟手続きの不可欠な要件であり、厳格な遵守が求められる。
- 複数の原告がいる場合、原則として全員が認証に署名する必要がある。
- 例外的に一部署名が認められる場合もあるが、限定的であり、裁判所の判断に委ねられる。
- 手続き上の不備は訴えの却下理由となり得るため、弁護士は手続き規則の遵守を徹底する必要がある。
よくある質問 (FAQ)
Q1: フォーラムショッピング防止認証は、どのような訴訟で必要ですか?
A1: 民事訴訟、セルティオラリ申立て、マンダマス申立てなど、主要な訴訟手続きで必要です。刑事訴訟では原則として不要ですが、一部の準司法手続きでは必要となる場合があります。
Q2: フォーラムショッピング防止認証に不備があった場合、必ず訴えは却下されますか?
A2: 原則として却下されます。ただし、裁判所が「実質的遵守」や「例外的な事情」を認める場合、修正の機会が与えられることもあります。しかし、期待しない方が賢明です。
Q3: 複数の原告がいる場合、全員が同じ認証書に署名する必要がありますか?
A3: はい、原則として同じ認証書に全員が署名する必要があります。別々の認証書を提出することも可能ですが、手続きが煩雑になるため、同一の認証書に全員が署名することが推奨されます。
Q4: フォーラムショッピング防止認証の署名を弁護士に委任できますか?
A4: 原則として、当事者本人が署名する必要があります。弁護士が署名するためには、特別委任状が必要となります。ただし、裁判所によっては弁護士の署名を認めない場合もありますので、注意が必要です。
Q5: フォーラムショッピング防止認証の虚偽記載はどのようなペナルティがありますか?
A5: 法廷侮辱罪(indirect contempt of court)に問われる可能性があります。また、虚偽記載によって訴訟が不当に遅延した場合、損害賠償責任を負う可能性もあります。
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Source: Supreme Court E-Library
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