フィリピンにおけるフォーラムショッピングのリスクと弁護士の責任

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フィリピンにおけるフォーラムショッピングのリスクと弁護士の責任

Edgardo A. Tapang, Complainant, vs. Atty. Marian C. Donayre, Respondent. (A.C. No. 12822, November 18, 2020)

フィリピンで事業を展開する日本企業や在フィリピン日本人にとって、フォーラムショッピングは深刻な法的リスクをもたらす可能性があります。この事例では、弁護士がクライアントのために二度目の労働訴訟を提起し、結果としてフォーラムショッピングと見なされ、懲戒処分を受けたケースを検討します。事例の中心的な問題は、弁護士が同じ訴訟を繰り返し提起することで、司法制度を悪用したことです。この事例から、フォーラムショッピングの定義、弁護士の責任、そしてその結果を学ぶことができます。

エドガルド・A・タパン(以下、「訴訟人」)は、アナニアス・バカソ(以下、「バカソ」)による違法解雇と金銭請求の労働訴訟で被告とされました。マリアン・C・ドナイレ弁護士(以下、「ドナイレ弁護士」)はバカソの代理人として訴訟を担当しました。最初の訴訟は労働審判官(以下、「LA」)によって却下され、最終的な決定が出されました。しかし、ドナイレ弁護士は同じ請求を基に新たな訴訟を提起し、フォーラムショッピングの疑いを招きました。この行為により、ドナイレ弁護士は懲戒処分を受け、2年間の法律実務停止を命じられました。

法的背景

フィリピンでは、フォーラムショッピングは「同じ訴訟原因と同一の請求に基づく複数の訴訟を、同時にまたは連続して提起すること」と定義されています。これは、司法制度の濫用であり、res judicata(既判力)の原則に反します。res judicataは、最終的な判決が出た後に同じ訴訟を再び提起することを禁止する原則です。フィリピンにおける弁護士の職業倫理規定(Code of Professional Responsibility, CPR)では、弁護士は手続き規則を遵守し、司法制度を悪用してはいけないと定めています(Rule 10.03, Canon 10)。また、弁護士は同一の訴訟原因に基づく複数の訴訟を提起してはならない(Rule 12.02, Canon 12)とされています。

日常生活では、例えば、ある企業が従業員との労働紛争で敗訴した場合、その決定が最終的なものであれば、再度同じ訴訟を提起することはできません。これは、司法制度の効率性と公正さを保つために重要です。CPRの関連条項は以下の通りです:

CANON 10 — A lawyer owes candor, fairness and good faith to the court.

Rule 10.03 — A lawyer shall observe the rules of procedure and shall not misuse them to defeat the ends of justice.

CANON 12 — A lawyer shall exert every effort and consider it his duty to assist in the speedy and efficient administration of justice.

Rule 12.02 — A lawyer shall not file multiple actions arising from the same cause.

Rule 12.04 — A lawyer shall not unduly delay a case, impede the execution of a judgment or misuse court processes.

事例分析

バカソは最初に、タパンに対する違法解雇と金銭請求の訴訟を提起しました。この訴訟はLAによって却下され、2010年6月16日に最終的な決定となりました。ドナイレ弁護士はこの決定を受け取っていましたが、2010年7月5日に同じ請求に基づく新たな訴訟を提起しました。これに対し、タパンはres judicataを理由に却下を求める動議を提出しましたが、LAは動議を却下し、双方に意見書の提出を指示しました。最終的に、LAはバカソに有利な判決を下しましたが、NLRC(National Labor Relations Commission)はこの決定を覆し、res judicataと雇用主-従業員関係の不存在を理由に訴訟を却下しました。

ドナイレ弁護士は、IBP(Integrated Bar of the Philippines)の調査委員会からの答弁提出、強制会議への出席、意見書の提出の指示に従わなかったため、さらに問題が深刻化しました。これらの行為は、司法制度に対する不敬と見なされ、最終的にドナイレ弁護士はフォーラムショッピングと司法制度の悪用により、2年間の法律実務停止を命じられました。裁判所の重要な推論は以下の通りです:

“The essence of forum shopping is the filing of multiple suits involving the same parties for the same cause of action, either simultaneously or successively, for the purpose of obtaining a favorable judgment.”

“Atty. Donayre should have known better than to file the second labor case as the dismissal of NLRC Case No. RAB VII-09-2458-2009 had the effect of an adjudication on the merits.”

この事例の手続きの流れは以下の通りです:

  • 2009年:バカソが最初の違法解雇訴訟を提起
  • 2010年5月14日:LAが最初の訴訟を却下
  • 2010年6月16日:最初の訴訟の決定が最終的となる
  • 2010年7月5日:ドナイレ弁護士が二度目の訴訟を提起
  • 2011年3月23日:LAが二度目の訴訟でバカソに有利な判決を下す
  • 2011年11月24日:NLRCが二度目の訴訟を却下
  • 2020年11月18日:最高裁判所がドナイレ弁護士に2年間の法律実務停止を命じる

実用的な影響

この判決は、フィリピンで事業を展開する日本企業や在フィリピン日本人に対して、フォーラムショッピングのリスクを強く認識させるものです。弁護士がクライアントのために同じ訴訟を繰り返し提起することは、懲戒処分の対象となる可能性があります。企業や個人は、弁護士の行動を監視し、フォーラムショッピングを避けるために適切な法的助言を求めるべきです。特に、日本とフィリピンの法的慣行の違いについて理解を深めることが重要です。

主要な教訓は以下の通りです:

  • フォーラムショッピングは司法制度の濫用であり、懲戒処分の対象となる可能性がある
  • 弁護士は、同じ訴訟原因に基づく複数の訴訟を提起してはならない
  • IBPの指示に従わないことは、さらに厳しい処分を招く可能性がある

よくある質問

Q: フォーラムショッピングとは何ですか?

A: フォーラムショッピングは、同じ訴訟原因と同一の請求に基づく複数の訴訟を、同時にまたは連続して提起することです。これは司法制度の濫用と見なされます。

Q: res judicataとは何ですか?

A: res judicataは、最終的な判決が出た後に同じ訴訟を再び提起することを禁止する原則です。これにより、司法制度の効率性と公正さが保たれます。

Q: 弁護士がフォーラムショッピングを行った場合、どのような処分が下される可能性がありますか?

A: 弁護士がフォーラムショッピングを行った場合、懲戒処分として法律実務停止や罰金が科せられる可能性があります。この事例では、ドナイレ弁護士は2年間の法律実務停止を命じられました。

Q: 日本企業がフィリピンでフォーラムショッピングを避けるにはどうすればよいですか?

A: 日本企業は、フィリピンの法的慣行を理解し、信頼できる法律顧問と協力することが重要です。また、訴訟を提起する前に、既存の判決の影響を慎重に検討する必要があります。

Q: フィリピンでの法律実務停止はどのように影響しますか?

A: 法律実務停止は、弁護士がその期間中に法律実務を行うことを禁止します。これにより、クライアントは別の弁護士を雇う必要があります。また、弁護士の評判にも影響を与える可能性があります。

ASG Lawは、フィリピンで事業を展開する日本企業および在フィリピン日本人に特化した法律サービスを提供しています。フォーラムショッピングや労働訴訟に関する問題に対応するための専門的な助言を提供します。バイリンガルの法律専門家がチームにおり、言語の壁なく複雑な法的問題を解決します。今すぐ相談予約またはkonnichiwa@asglawpartners.comまでお問い合わせください。

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