債務不履行:担保契約と準拠法、フィリピン最高裁判所の判断

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担保権実行と債務消滅:準拠法の選択が重要な判断基準

G.R. Nos. 216608 & 216625, April 26, 2023

債務不履行が発生した場合、債権者は担保権を実行して債権回収を図ります。しかし、担保契約に準拠法が定められている場合、その法律に従って担保権を実行する必要があります。フィリピンの最高裁判所は、本件において、準拠法の選択が債務消滅の有無を判断する上で重要な要素であることを明らかにしました。

はじめに

債務不履行は、企業経営において避けられないリスクの一つです。債権者は、債務不履行に備えて担保権を設定することが一般的ですが、担保契約の内容や準拠法によっては、債権回収が困難になる場合があります。本件は、複数の契約が絡み合い、準拠法が異なる場合に、債務消滅の有無をどのように判断すべきかという複雑な問題を取り扱っています。

本件は、スタンダードチャータード銀行(SCB)が、フィリピン投資会社(PI Two)に対して有する債権の回収を巡る争いです。SCBは、PI Twoの親会社であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(LBHI)が破綻したことを受け、PI Twoに対して債務の履行を求めました。PI Twoは、SCBがLBHIから担保を取得していたことを主張し、債務が消滅したと反論しました。裁判所は、担保契約に準拠法が定められている場合、その法律に従って担保権を実行する必要があることを確認し、債務消滅の有無を判断しました。

法的背景

本件に関連する重要な法律は、フィリピン民法です。特に、第1231条は債務の消滅事由を列挙しており、第2115条は質権の実行による債務消滅について規定しています。また、契約の準拠法に関する原則も重要です。フィリピンでは、契約当事者は、法律、道徳、公序良俗に反しない範囲で、自由に契約内容を定めることができます。これには、契約の準拠法を選択することも含まれます。

フィリピン民法第1231条は、債務の消滅事由として、履行、目的物の滅失、債権放棄、混同、相殺、更改などを規定しています。本件では、質権の実行が履行に該当するかどうかが争点となりました。

フィリピン民法第2115条は、「質物の売却は、売却代金が元本、利息、および適切な場合の費用に等しいかどうかにかかわらず、主たる債務を消滅させるものとする」と規定しています。この規定は、債権者が質物を売却した場合、その売却代金をもって債務が弁済されたものとみなすことを意味します。

契約の準拠法に関する原則は、国際的な取引において特に重要です。契約当事者は、自らの契約に適用される法律を自由に選択することができます。ただし、その選択は、法律、道徳、公序良俗に反してはなりません。準拠法の選択は、契約の解釈や履行に関する紛争を解決する上で重要な役割を果たします。

例として、フィリピン企業と日本企業が合弁契約を締結する場合を考えてみましょう。両社は、契約の準拠法として日本法を選択することができます。この場合、契約の解釈や履行に関する紛争は、日本法に基づいて解決されます。しかし、もし契約内容がフィリピンの法律に違反する場合、その部分は無効となる可能性があります。

事例の分析

2003年から2007年の間に、SCBニューヨーク支店とLBHI(PI Twoの親会社)は、複数の契約(グループ・ファシリティ・アグリーメント)を締結しました。この契約に基づき、SCBニューヨーク支店はLBHIとその海外関連会社に融資を行うことになりました。PI Twoは、このグループ・ファシリティ・アグリーメントを通じて、SCBフィリピン支店から8億1,900万ペソの融資を受けました。

LBHIは、海外関連会社への融資の担保として、保証(LBHI保証)を提供しました。LBHI保証の条件に基づき、LBHIは、LBHI関連会社の債務を、満期、宣言、要求など、いかなる時点においても、利息や費用を含めて支払うことを約束しました。

2008年9月12日、LBHIはSCBニューヨーク支店に対して質権設定契約を締結しました。この契約に基づき、LBHIは、HDサプライ社発行の債券(額面8,145万5,477米ドル)と、アイディアーク社に対する融資(8,718万9,447米ドル)をSCBニューヨーク支店に担保として提供しました。

2008年9月15日、LBHIは米国連邦破産法第11条に基づき破産を申請しました。これにより、LBHIの債権者は、LBHIに対する債権の行使や担保権の実行が一時的に停止されました。

PI Twoの約束手形には、PI Twoの財務状況に重大な変化が生じ、SCBフィリピン支店の合理的な判断でPI Twoが約束手形に基づく義務を履行する能力に悪影響を及ぼす場合、SCBフィリピン支店は、通知または要求なしに、PI Twoの融資およびすべての未払い利息を期限到来と宣言することができるという条項が含まれていました。

LBHIが破産を申請した際、SCBフィリピン支店はPI Twoに対して、2008年9月時点で8億2,506万3,286.11ペソの融資と未払い利息の支払いを要求しました。PI Twoは、この要求に応じませんでした。

2013年8月30日、地方裁判所は、SCBフィリピン支店の債権をリハビリテーション手続きから除外し、SCBフィリピン支店がリハビリテーション計画に基づいて受け取った金額をPI Twoに返還するよう命じる共同決議を発行しました。SCBフィリピン支店は、この共同決議を不服として控訴しましたが、控訴裁判所はこれを棄却しました。

最高裁判所は、以下の点を考慮して、控訴裁判所の判断を覆しました。

  • LBHI保証、LBHI質権設定契約、および和解合意書は、すべてニューヨーク州法に準拠することが明記されている。
  • PI Twoの債務は、和解合意書の締結によって消滅していない。
  • 共同決議は、事実と法律の根拠を欠いており、SCBフィリピン支店の適正手続きの権利を侵害している。

最高裁判所は、特に以下の点を強調しました。

「債務消滅の問題は、主たる債務に付随するものであり、担保契約に付随するものではない。したがって、債務消滅の問題は、担保契約ではなく、主たる債務に適用される法律によって判断されるべきである。」

「質権の実行は、ニューヨーク州法に基づいて判断されるべきである。ニューヨーク州法によれば、SCBフィリピン支店は、質権を実行しておらず、担保権を取得していない。したがって、PI Twoの債務は消滅していない。」

実務上の影響

本判決は、企業が国際的な取引を行う際に、契約の準拠法を慎重に選択することの重要性を示しています。特に、担保契約においては、準拠法が債権回収の成否を左右する可能性があります。企業は、契約締結前に、専門家と相談し、自社の利益を最大限に保護できる準拠法を選択する必要があります。

また、本判決は、裁判所が事実と法律の根拠を明確に示すことの重要性を強調しています。裁判所は、当事者の権利を保護するために、適正手続きを遵守する必要があります。企業は、裁判所の判断が不当であると感じた場合、積極的に異議を申し立てるべきです。

キーレッスン

  • 契約の準拠法は、債務消滅の有無を判断する上で重要な要素である。
  • 担保契約においては、準拠法を慎重に選択する必要がある。
  • 裁判所は、事実と法律の根拠を明確に示す必要がある。
  • 企業は、裁判所の判断が不当であると感じた場合、積極的に異議を申し立てるべきである。

例えば、あるフィリピン企業が、日本の銀行から融資を受ける場合を考えてみましょう。両社は、融資契約の準拠法として日本法を選択することができます。この場合、債務不履行が発生した場合、日本の法律に基づいて担保権が実行されます。しかし、もし担保契約がフィリピン法に準拠する場合、担保権の実行手続きはフィリピン法に従って行われる必要があります。この違いは、債権回収の成否に大きな影響を与える可能性があります。

よくある質問

Q: 準拠法とは何ですか?

A: 準拠法とは、契約や法律関係に適用される法律のことです。国際的な取引においては、複数の国の法律が関係する可能性があるため、どの国の法律を適用するかを決定する必要があります。

Q: 準拠法はどのように選択されますか?

A: 準拠法は、契約当事者の合意によって選択されることが一般的です。ただし、合意がない場合や、合意が法律、道徳、公序良俗に反する場合、裁判所が準拠法を決定します。

Q: 準拠法の選択は、債権回収にどのような影響を与えますか?

A: 準拠法の選択は、債権回収の手続きや、債権者の権利に大きな影響を与えます。例えば、ある国の法律では、担保権の実行が容易である一方、別の国の法律では、担保権の実行が困難である場合があります。

Q: 担保契約における準拠法の選択で注意すべき点は何ですか?

A: 担保契約における準拠法の選択では、以下の点に注意する必要があります。

  • 自社の事業や資産が所在する国の法律を十分に理解する。
  • 債権回収の手続きや、債権者の権利について、専門家と相談する。
  • 自社の利益を最大限に保護できる準拠法を選択する。

Q: 本判決は、今後の債権回収にどのような影響を与えますか?

A: 本判決は、今後の債権回収において、準拠法の選択が重要な要素であることを改めて確認しました。企業は、契約締結前に、準拠法を慎重に検討し、自社の利益を最大限に保護する必要があります。

より詳しい情報やご相談は、お問い合わせまたはkonnichiwa@asglawpartners.comまでご連絡ください。ASG Lawがお手伝いいたします。

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