船員の障害給付:医師の診断期間と権利確定の基準

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本判決は、海外で働くフィリピン人船員の障害給付請求に関する重要な判断を示しました。最高裁判所は、雇用主が指定した医師(以下、会社指定医)が船員の帰国後120日以内に最終的な診断を下せない場合、一定の条件下で船員に障害給付金が支払われるべきであると判示しました。しかし、医師が診断期間の延長に正当な理由を示した場合、最大240日まで期間が延長される可能性があります。本判決は、会社指定医による診断期間の遵守と、船員の権利保護とのバランスを図るものです。

会社指定医の診断遅延:船員の障害給付は認められるか?

本件は、船員のロベルト・M・ラモガ・ジュニア氏が、勤務中に負傷し、障害給付を請求した事件です。ラモガ氏は、ティーケイ・シッピング・フィリピン社(以下、ティーケイ社)との間で海外雇用契約を結び、M/T「セバロク・スピリット」号にデッキ見習いとして乗船しました。乗船後6ヶ月足らずで、船内の階段で足を滑らせ、左足首を負傷しました。タイの病院でX線検査を受けた結果、第2中足骨基部の非転位骨折および第3中足骨基部の軽度転位骨折と診断されました。手術が推奨され、ラモガ氏はフィリピンに送還されました。

帰国後、ラモガ氏は会社指定医による治療を受けましたが、症状は改善しませんでした。会社指定医は、ラモガ氏が業務に復帰可能であると診断しましたが、ラモガ氏は別の医師の診断を受け、同医師はラモガ氏が以前の職務に戻ることは不可能であると診断しました。これを受けて、ラモガ氏は永久的な全身障害給付、疾病手当、医療費、損害賠償、弁護士費用を請求する訴訟を提起しました。労働仲裁官および国家労働関係委員会(NLRC)は、ラモガ氏の請求を認めましたが、控訴院はNLRCの決定を支持しました。

最高裁判所は、本件における控訴院の判断を覆し、ラモガ氏の請求を棄却しました。その理由は、会社指定医がラモガ氏の帰国後186日目に業務復帰可能であると診断しており、これは法律で認められた診断期間内であると判断したためです。最高裁判所は、会社指定医が診断期間を延長する正当な理由があったと認定し、ラモガ氏が会社指定医による診断が完了する前に訴訟を提起したことは時期尚早であったと結論付けました。最高裁判所は、船員の障害給付請求に関する重要な判例を引用し、会社指定医による診断が優先されるべきであるという原則を再確認しました。

労働法第198条(c)(1)は、120日を超える障害は完全かつ永久的なものとみなされると規定しています。一方で、従業員補償に関する改正規則の第X条第2項は以下のように定めています。

第2条 受給期間 – (a) 所得給付は、当該障害の初日から開始して支払われるものとする。傷害または疾病が原因である場合、120日間を超えて支払われることはない。ただし、当該傷害または疾病が120日を超えて治療を必要とするが、障害の発症から240日を超えない場合は、一時的な全身障害に対する給付が支払われるものとする。ただし、制度は、制度によって決定される身体的または精神的機能の実際の喪失または障害の程度によって正当と認められる場合、継続的な一時的全身障害の120日後、いつでも完全かつ永久的な状態を宣言することができる。(強調は筆者による)

最高裁判所は、エルバーグ・シップマネジメント・フィリピン社事件において、障害が永久的かつ全体的であるとみなされる期間を調和させました。裁判所は、会社指定医による評価期間について、以下の原則を確立しました。

  • 会社指定医は、船員が報告した時点から120日以内に、船員の障害等級に関する最終的な医学的評価を発行しなければなりません。
  • 会社指定医が、正当な理由なく120日以内に評価を与えない場合、船員の障害は永久的かつ全体的なものとなります。
  • 会社指定医が、十分な正当化(例えば、船員がさらなる医学的治療を必要とする、または船員が非協力的であるなど)をもって120日以内に評価を与えない場合、診断と治療の期間は240日まで延長されるものとします。雇用主は、会社指定医が期間を延長する十分な正当性を持っていることを証明する責任を負います。
  • 会社指定医が延長された240日の期間内でも評価を与えない場合、正当化の如何にかかわらず、船員の障害は永久的かつ全体的なものとなります。

本判決は、会社指定医による診断の重要性を強調し、船員の権利と雇用主の義務のバランスを取るための明確な基準を示しました。船員は、会社指定医の診断に不満がある場合、独立した医師の意見を求めることができますが、会社指定医の診断は、より長期間の観察と治療に基づいており、より信頼性が高いと一般的に見なされます。したがって、船員の障害給付請求は、会社指定医による適切な診断と評価に基づいて判断されるべきです。

FAQs

本件の争点は何ですか? 海外で勤務するフィリピン人船員の障害給付請求において、会社指定医の診断期間と、船員の権利確定時期が争点となりました。特に、会社指定医が診断期間を延長する正当な理由の有無が重要視されました。
会社指定医の診断期間は? 原則として、船員の帰国後120日以内に会社指定医は最終的な診断を下す必要があります。ただし、船員の治療状況などにより、正当な理由がある場合は、最大240日まで診断期間が延長されることがあります。
会社指定医の診断が遅れた場合、どうなりますか? 会社指定医が正当な理由なく診断期間内に診断を下せない場合、船員の障害は永久的かつ全体的なものとみなされ、障害給付金が支払われる可能性が高まります。
船員が会社指定医の診断に不満な場合、どうすればよいですか? 船員は、独立した医師の意見を求めることができます。ただし、会社指定医の診断は、より長期間の観察と治療に基づいているため、裁判所などで重視される傾向があります。
本判決のポイントは何ですか? 本判決は、会社指定医による診断の重要性を強調し、船員の権利と雇用主の義務のバランスを取るための明確な基準を示しました。会社指定医による診断期間の遵守と、正当な理由による期間延長の判断基準が明確化されました。
本判決は、今後の船員の権利にどのような影響を与えますか? 本判決により、船員は会社指定医による診断期間を意識し、自身の権利を主張することが重要になります。また、会社指定医による診断が遅れた場合、障害給付金を請求できる可能性が高まります。
本判決は、雇用主にどのような義務を課しますか? 雇用主は、会社指定医に対し、診断期間内に適切な診断を行うよう促す義務があります。また、診断期間を延長する場合は、正当な理由を明確に示す必要があります。
本判決は、どのような種類の船員に適用されますか? 本判決は、海外で勤務するフィリピン人船員に適用されます。フィリピンの法律に基づいて雇用契約を結んでいる船員が対象となります。

本判決は、船員の障害給付請求に関する重要な判断を示しました。会社指定医による診断の重要性を理解し、自身の権利を適切に行使することが、船員にとって重要となります。

本判決の具体的な状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Law(お問い合わせ)またはメール(frontdesk@asglawpartners.com)までご連絡ください。

免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:Teekay Shipping Philippines, Inc. v. Ramoga, G.R No. 209582, 2018年1月19日

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