違法解雇?会社役員の場合はSEC管轄!最高裁判決例:デ・ロッシ対NLRC事件

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会社役員の解雇問題はSECの管轄!労働紛争との違いを最高裁判決から解説

G.R. No. 108710, 1999年9月14日

フィリピンで会社役員が不当解雇された場合、どこに訴えるべきかご存知でしょうか?労働紛争は通常、労働仲裁委員会(NLRC)の管轄ですが、会社役員の場合は証券取引委員会(SEC)の管轄となる場合があります。最高裁判所はデ・ロッシ対NLRC事件において、この重要な管轄問題を明確にしました。本稿では、この判決を詳細に分析し、会社役員の解雇における管轄の判断基準、企業が注意すべき点、そして労働者が知っておくべき権利について解説します。

イントロダクション:会社役員の解雇、労働問題?それとも企業内紛争?

会社経営に深く関わる役員の解雇は、従業員の解雇とは性質が異なります。単なる労働問題として扱われる場合もあれば、企業内部の紛争、すなわち「企業内紛争」として扱われる場合もあるのです。この区別は、訴訟を起こすべき管轄機関を決定する上で非常に重要です。誤った機関に訴えてしまうと、訴えが却下される可能性もあります。デ・ロッシ対NLRC事件は、まさにこの管轄問題が争われた事例です。本件では、会社の執行副社長兼総支配人であったイタリア国籍のアルマンド・デ・ロッシ氏が解雇され、NLRCに不当解雇の訴えを起こしました。しかし、最高裁は、デ・ロッシ氏が会社役員であることから、本件はSECの管轄であると判断しました。この判決は、フィリピンにおける会社役員の解雇に関する管轄の原則を確立し、後の判例にも大きな影響を与えています。

法的背景:管轄権を定める法律と過去の判例

フィリピンにおける労働紛争は、原則として労働法および労働関係法に基づいてNLRCの管轄とされています。労働法第217条は、労働仲裁官が管轄権を持つ事件として、違法解雇、未払い賃金、損害賠償などを列挙しています。一方、会社法(改正会社法典)およびPD 902-A(証券取引委員会の権限を拡大する大統領令)は、SECに企業内紛争に関する管轄権を与えています。特にPD 902-A第5条(c)は、「取締役、理事、役員または管理職の選任または任命に関する紛争」をSECの管轄と明記しています。この条項が、会社役員の解雇事件における管轄を判断する上で重要な根拠となります。

最高裁判所は、過去の判例において、会社役員の解雇は企業内紛争に該当し、SECの管轄であるという立場を繰り返し示してきました。有名な判例としては、PSBA対レアノ事件(1984年)、Dy対NLRC事件(1986年)、フォーチュン・セメント対NLRC事件(1991年)などが挙げられます。これらの判例は、会社役員が会社の定款や内規に基づいて選任・任命される「役職」にあることを重視し、その解任は会社の内部管理行為であり、企業内紛争に該当すると解釈しています。重要なのは、役員の職務内容や雇用契約の形式ではなく、その役職が会社の組織構造においてどのような位置づけにあるかという点です。

判決の詳細:デ・ロッシ対NLRC事件の経緯

本件の原告であるデ・ロッシ氏は、マティング・インダストリアル・アンド・コマーシャル・コーポレーション(MICC)の執行副社長兼総支配人として勤務していました。1988年8月10日にMICCから解雇された後、NLRCに違法解雇の訴えを提起しました。解雇理由としてMICCは、デ・ロッシ氏が就労許可を取得していなかったこと、会社経営を著しく mismanagement したこと、そして会社資金を不正使用したことを主張しました。一方、デ・ロッシ氏は、就労許可の取得は会社の義務であり、解雇は正当な理由がない違法解雇であると反論しました。

労働仲裁官は、デ・ロッシ氏の訴えを認め、復職と損害賠償を命じる判決を下しました。しかし、MICCはこれを不服としてNLRCに控訴。MICCは、デ・ロッシ氏の役職が会社の定款で定められた役員であり、その解雇は企業内紛争に該当するため、NLRCには管轄権がないと主張しました。NLRCも当初は労働仲裁委員会の管轄であるとの見解を示しましたが、最高裁判所の判例に鑑み、最終的にSECに管轄権があると判断し、原判決を破棄、訴えを却下しました。

デ・ロッシ氏は、NLRCの決定を不服として最高裁判所に上訴しました。デ・ロッシ氏は、自身が株主ではなく、役員に選任されたわけでもないと主張し、本件は企業内紛争ではないと主張しました。また、MICCが管轄権の問題をNLRCへの控訴段階で初めて提起したことは遅きに失していると主張しました。しかし、最高裁は、執行副社長が会社の定款で定められた役員であること、そして管轄権の問題はいつでも提起できることを理由に、NLRCの判断を支持し、デ・ロッシ氏の上訴を棄却しました。最高裁は判決の中で、以下の点を強調しました。

  • 会社の定款によって役員が定められている場合、その役員は「役職」にあるとみなされる。
  • 役員の解任は企業内部の行為であり、企業内紛争に該当する。
  • 管轄権の欠如は、訴訟のどの段階でも問題にすることができる。

最高裁は、過去の判例を引用し、SECが企業内紛争に関する排他的管轄権を持つことを改めて確認しました。特にPD 902-A第5条(c)を根拠に、役員の解任に関する紛争はSECの管轄であると明言しました。また、デ・ロッシ氏が株主であるか否か、役員選任の手続きがどうであったかなどは、管轄の判断には影響しないとしました。

実務上の影響:企業と労働者が知っておくべきこと

デ・ロッシ対NLRC事件の判決は、企業が会社役員を解雇する際、そして会社役員が不当解雇を訴える際に、管轄機関を正しく判断することの重要性を改めて示しています。企業は、解雇しようとする役員の役職が定款や内規でどのように定められているかを確認する必要があります。もし役員が定款上の役職にある場合、その解雇は企業内紛争としてSECの管轄となる可能性が高いことを認識しておく必要があります。労働者、特に会社役員として働く人々は、自身の役職が企業組織においてどのような位置づけにあるかを理解しておくことが重要です。万が一、不当解雇されたと感じた場合、まずSECに相談することを検討すべきでしょう。

本判決は、管轄権の問題は訴訟のどの段階でも提起できるという原則を再確認しました。これは、企業が訴訟戦略を立てる上で重要なポイントです。たとえ労働仲裁委員会で不利な判決が出たとしても、控訴審以降で管轄権の問題を主張し、SECへの移送を求めることが可能です。ただし、訴訟の長期化を避けるためにも、初期段階で管轄権を明確にすることが望ましいでしょう。

重要なポイント

  • 会社役員の解雇は、企業内紛争としてSECの管轄となる場合がある。
  • 管轄の判断基準は、解雇された役員の役職が会社の定款や内規で定められているかどうか。
  • 管轄権の欠如は、訴訟のどの段階でも問題にすることができる。
  • 企業は、役員の役職と管轄機関を事前に確認することが重要。
  • 労働者は、自身の役職と権利について理解しておくことが重要。

よくある質問(FAQ)

  1. Q: 従業員が不当解雇された場合はどこに訴えるべきですか?
    A: 通常、従業員の不当解雇は労働仲裁委員会(NLRC)の管轄です。
  2. Q: 会社役員が不当解雇された場合はどこに訴えるべきですか?
    A: 会社役員の場合、証券取引委員会(SEC)の管轄となる可能性があります。役員の役職が会社の定款や内規で定められているかどうかが判断基準となります。
  3. Q: 「会社役員」とは具体的にどのような役職を指しますか?
    A: 本判決では、会社の定款や内規で定められた役職を指します。具体的には、社長、副社長、取締役、監査役、秘書役、会計役などが該当する可能性があります。
  4. Q: SECとNLRCの管轄の違いは、労働者にとってどのような影響がありますか?
    A: 管轄が異なると、手続きや適用される法律、そして最終的な判断が異なる可能性があります。SECは企業内紛争に特化した専門機関であり、NLRCは労働問題全般を扱う機関です。
  5. Q: 会社が管轄を間違えて訴訟を起こした場合、どうなりますか?
    A: 管轄違いの場合、訴えは却下される可能性があります。ただし、管轄権の問題は訴訟のどの段階でも提起できるため、早期に適切な管轄機関に訴えを提起することが重要です。
  6. Q: 会社役員として解雇された場合、どのような証拠を準備すべきですか?
    A: 解雇通知書、雇用契約書、会社の定款・内規、役員としての職務内容を示す資料、解雇理由に対する反論などを準備する必要があります。
  7. Q: 本判決は、どのような企業に特に重要ですか?
    A: 役員を雇用している全て企業にとって重要ですが、特に外資系企業や多国籍企業など、組織構造が複雑な企業にとっては、管轄の判断がより重要になる場合があります。
  8. Q: 弁護士に相談する場合、どのような弁護士に相談すべきですか?
    A: 労働問題と企業内紛争の両方に精通した弁護士、またはそれぞれの分野に特化した弁護士に相談することをお勧めします。

会社役員の解雇問題は、法的な判断が複雑になる場合があります。ASG Lawは、フィリピン法、特に労働法および会社法に精通しており、本件のような会社役員の解雇問題に関する豊富な経験と専門知識を有しています。もし、会社役員の解雇問題でお困りの際は、ASG Lawまでお気軽にご相談ください。
konnichiwa@asglawpartners.com お問い合わせはこちら



Source: Supreme Court E-Library
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