フィリピンにおける歩合制労働者の退職金と賃金計算:最高裁判所の判決

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歩合制労働者の公正な賃金:最低賃金に基づく退職金と未払い賃金の計算方法

G.R. No. 116593, 1997年9月24日

はじめに

フィリピンにおいて、多くの労働者が時間給ではなく、出来高に応じて賃金が支払われる歩合制で働いています。しかし、歩合制労働者の賃金計算、特に退職金や未払い賃金の計算方法は複雑で、しばしば紛争の原因となります。もし、歩合制労働者に対する特別な賃金率が定められていない場合、退職金や未払い賃金はどのように計算されるべきでしょうか?

この問題に取り組んだのが、今回解説する最高裁判所の判例、Pulp and Paper, Inc. v. National Labor Relations Commission事件です。この判例は、歩合制労働者の権利保護において重要な教訓を示しており、使用者と労働者の双方にとって理解しておくべき内容を含んでいます。

法的背景:歩合制労働者の賃金と退職金に関するフィリピン労働法

フィリピン労働法は、歩合制労働者の賃金について、労働基準法第101条で規定しています。この条項は、労働大臣が歩合給、出来高払い、その他の非時間給労働を含む成果給による賃金支払いを規制し、公正かつ合理的な賃金率を確保することを目的としています。理想的には、賃金率は時間動作研究、または労働者と雇用主の代表との協議によって決定されるべきです。

労働基準法第101条(成果給)
(a) 労働大臣は、公正かつ合理的な賃金率、好ましくは時間動作研究を通じて、または労働者および使用者団体の代表者との協議により、賃金率を確保するために、歩合給、出来高払いおよびその他の非時間給労働を含む成果給による賃金支払いを規制するものとする。

しかし、実際には、すべての産業や企業で時間動作研究が行われているわけではありません。また、労働大臣によって特定の歩合制賃金率が定められていない場合も存在します。このような状況において、歩合制労働者の賃金はどのように保護されるのでしょうか?

この点に関して、賃金命令NCR-02およびNCR-02-Aの施行規則第8条は、重要な指針を示しています。この規則は、時間動作研究に基づく賃金率が存在しない場合、地域三者構成賃金生産性委員会が定める通常の最低賃金率を歩合制労働者に適用することを義務付けています。

賃金命令NCR-02およびNCR-02-A施行規則第8条(成果給労働者)
a) 出来高払い、請負払い、歩合払い、またはタスクベースで支払われる労働者を含む、成果給で支払われるすべての労働者は、1日の通常の労働時間(8時間を超えないものとする)または通常の労働時間未満の労働時間に対しては、命令に基づいて定められた適用される最低賃金率以上の賃金を受け取るものとする。
b) 成果給で支払われる労働者の賃金率は、改正労働基準法第101条およびその施行規則に従って引き続き設定されるものとする。

また、退職金に関しては、労働基準法第286条が一時的な事業停止の場合の雇用継続について規定しており、今回の判例では、この条項が解雇の有効性を判断する上で重要な役割を果たしました。

労働基準法第286条(雇用が終了したとみなされない場合)
6ヶ月を超えない期間の事業または事業の一時停止、または従業員による兵役または市民的義務の履行は、雇用を終了させないものとする。かかるすべての場合において、使用者は、事業再開後または兵役もしくは市民的義務からの解放後1ヶ月以内に業務再開の意思表示をした従業員を、年功序列権を失うことなく元の職位に復帰させるものとする。

さらに、不当解雇の場合の救済措置として、労働基準法第279条は、正当な理由または法律で認められた理由がない限り、使用者は従業員を解雇できないと規定しています。不当に解雇された従業員は、復職、未払い賃金、およびその他の手当を受ける権利があります。

労働基準法第279条(雇用の安定)
通常の雇用の場合、使用者は、正当な理由がある場合、または本法典により許可されている場合を除き、従業員の雇用を終了させてはならない。不当に解雇された従業員は、年功序列権およびその他の特権を失うことなく復職し、また、手当を含む全額の未払い賃金、およびその他の給付金またはそれらの金銭的価値を、報酬が差し止められた時から実際に復職する時まで計算して受ける権利を有する。(共和国法律第6715号第34条により改正)

事件の経緯:パルプ・アンド・ペーパー社対国家労働関係委員会事件

この事件の原告であるエピファニア・アントニオは、パルプ・アンド・ペーパー社(以下「会社」)で1975年から包装作業員として働いていた歩合制労働者です。1991年6月29日、会社から一時解雇を言い渡され、その後6ヶ月以上経過しても復職の連絡はありませんでした。アントニオは、会社からの解雇通知がないにもかかわらず、事実上の解雇(建設的解雇)であると主張し、違法解雇と未払い賃金を訴えて国家労働関係委員会(NLRC)に訴えを提起しました。

労働仲裁官は、アントニオの違法解雇の訴えは退けましたが、退職金と未払い賃金の支払いを会社に命じました。NLRCも労働仲裁官の決定を支持し、会社はこれを不服として最高裁判所に上訴しました。

会社は、アントニオが歩合制労働者であるため、退職金の計算は時間給労働者とは異なり、実際の出来高または労働大臣が定める歩合制最低賃金に基づいて行うべきだと主張しました。また、一時解雇は経営上の理由によるものであり、退職金は月給1ヶ月分ではなく、月給0.5ヶ月分で計算すべきだと主張しました。

しかし、最高裁判所は、NLRCの決定を支持し、会社の上訴を棄却しました。最高裁判所は、以下の理由から、NLRCの判断が正当であるとしました。

  1. 歩合制労働者の賃金計算:労働大臣が定める歩合制賃金率が存在しない場合、地域三者構成賃金生産性委員会が定める最低賃金率を適用すべきである。会社は、歩合制労働者の賃金率について労働大臣に諮問したり、時間動作研究を提出したりする義務を怠った。
  2. 建設的解雇の認定:会社は、アントニオを一時解雇してから6ヶ月以上経過しても復職させなかった。これは労働基準法第286条に違反し、事実上の解雇(建設的解雇)とみなされる。
  3. 退職金の計算:建設的解雇の場合、従業員は月給1ヶ月分の退職金を受け取る権利がある。会社が主張する経営上の理由による解雇(整理解雇)には該当しないため、月給0.5ヶ月分ではなく、月給1ヶ月分で計算するのが妥当である。
  4. 未払い賃金の計算:最低賃金と実際に支払われていた賃金の差額を基に、未払い賃金を計算するのが妥当である。会社は、アントニオの労働が季節労働であるという主張を立証できなかった。

最高裁判所は判決の中で、以下の重要な点を強調しました。

「使用者は、歩合制労働者の適切な賃金率を提案するイニシアチブを取らなかった。そのような賃金率がない場合、労働仲裁官は、私的被申立人の退職金の計算において、定められた最低賃金率を適用したことを責めることはできない。実際、労働仲裁官は、前提において正しく合法的に行動し、裁定を下したのである。」

「私的被申立人のサービスが終了したと判断するにあたり、公的被申立人(NLRC)が建設的解雇に関する規則を類推的に採用したことを、請願者は理解できなかった。私的被申立人は、雇用の「停止」から6ヶ月以内に再雇用されなかったため、建設的に解雇されたとみなされる。」

実務上の影響:企業と労働者が学ぶべき教訓

この判例は、フィリピンで事業を行う企業、特に歩合制労働者を雇用する企業にとって、重要な実務上の影響を与えます。企業は、歩合制労働者の賃金制度を適切に設計し、法令遵守を徹底する必要があります。

企業が取るべき対策:

  • 歩合制賃金率の設定:歩合制労働者を雇用する場合、時間動作研究を実施するか、労働者代表と協議し、公正かつ合理的な歩合制賃金率を設定する。設定した賃金率は、労働大臣の承認を得るか、少なくとも労働省に届け出る。
  • 最低賃金の遵守:歩合制賃金率を設定しない場合、または設定した賃金率が最低賃金を下回る場合は、地域三者構成賃金生産性委員会が定める最低賃金率を適用する。
  • 一時解雇の適正な管理:一時解雇を行う場合、期間を6ヶ月以内とし、期間満了前に労働者を復職させる。6ヶ月を超えて一時解雇が継続する場合は、建設的解雇とみなされるリスクがあるため、整理解雇の手続きを検討する。
  • 解雇手続きの遵守:整理解雇を行う場合は、労働基準法第283条に定められた手続き(解雇予告、労働雇用省への通知など)を遵守する。
  • 記録の作成と保管:歩合制労働者の労働時間、出来高、賃金支払いに関する記録を正確に作成し、保管する。

労働者が知っておくべき権利:

  • 最低賃金の権利:歩合制労働者も、時間給労働者と同様に、最低賃金法によって保護されています。歩合制で働いていても、最低賃金以下の賃金しか受け取っていない場合は、未払い賃金を請求する権利があります。
  • 不当解雇からの保護:一時解雇が6ヶ月を超えて継続する場合や、整理解雇の手続きが適切に行われていない場合は、不当解雇を主張できる可能性があります。
  • 退職金の権利:建設的解雇とみなされた場合、または正当な理由なく解雇された場合は、退職金を請求する権利があります。

主な教訓

  • 歩合制労働者にも最低賃金が適用される。
  • 歩合制賃金率が定められていない場合、最低賃金に基づいて退職金や未払い賃金が計算される。
  • 一時解雇が長期間にわたる場合、建設的解雇とみなされる可能性がある。
  • 企業は、歩合制労働者の賃金制度を適正に管理し、法令遵守を徹底する必要がある。

よくある質問(FAQ)

  1. 質問:歩合制労働者とはどのような労働者ですか?
    回答:歩合制労働者とは、労働時間ではなく、出来高や成果に応じて賃金が支払われる労働者のことです。例えば、縫製工場で縫製した枚数に応じて賃金が支払われる労働者や、タクシー運転手で売上に応じて賃金が支払われる労働者などが該当します。
  2. 質問:歩合制労働者には最低賃金は適用されないのですか?
    回答:いいえ、歩合制労働者にも最低賃金は適用されます。フィリピン労働法は、すべての労働者に最低賃金以上の賃金を支払うことを義務付けています。歩合制労働者であっても、1日の労働時間に対して最低賃金以上の賃金を受け取る権利があります。
  3. 質問:歩合制労働者の退職金はどのように計算されますか?
    回答:歩合制労働者の退職金は、原則として月給に基づいて計算されます。月給の計算方法は、時間給労働者と同様に、日給×月の労働日数で計算されます。日給は、最低賃金または実際に支払われていた賃金のうち、高い方を基準とします。
  4. 質問:一時解雇が6ヶ月を超えた場合、必ず建設的解雇とみなされるのですか?
    回答:必ずしもそうとは限りませんが、6ヶ月を超えて一時解雇が継続する場合、建設的解雇とみなされる可能性が高まります。企業は、一時解雇の理由や期間を明確にし、労働者に適切に説明する必要があります。
  5. 質問:会社から一方的に歩合制に変更されました。違法ではないですか?
    回答:労働条件の不利益変更は、原則として違法です。会社が一方的に労働条件を歩合制に変更する場合、労働者の同意を得る必要があります。同意なく一方的に変更された場合は、労働問題として専門家にご相談ください。
  6. 質問:未払い賃金を請求したい場合、どうすればよいですか?
    回答:まずは会社と交渉し、未払い賃金の支払いを求めることが考えられます。交渉がうまくいかない場合は、労働省または国家労働関係委員会(NLRC)に訴えを提起することができます。

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