違法ストライキ参加者も退職金を受け取る権利はあるか?会社役員の個人責任に関する最高裁判決

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違法ストライキ参加者も退職金を受け取る権利はあるか?会社役員の個人責任の限界

G.R. No. 124950, 1998年5月19日

はじめに

会社の経営者にとって、従業員の違法なストライキは頭の痛い問題です。しかし、違法ストライキに参加した従業員であっても、解雇された場合に当然に退職金を受け取る権利を失うわけではありません。また、会社の代表者が会社の債務について個人責任を負うのは、非常に限られた場合に限られます。本稿では、フィリピン最高裁判所の判決(ASIONICS PHILIPPINES, INC. VS. NATIONAL LABOR RELATIONS COMMISSION事件)を基に、これらの点について解説します。

この判決は、違法ストライキに参加した従業員の退職金請求権と、会社役員の個人責任の範囲という、企業経営において重要な2つの側面を扱っています。最高裁は、従業員の退職金請求を認めつつ、会社役員の個人責任を否定しました。この判断は、フィリピンの労働法と会社法における重要な原則を再確認するものです。

事件の概要

アシオニクス・フィリピン(API)は、半導体チップなどを輸出向けに組み立てる会社でした。ヨランダ・ボアキナとフアナ・ガヨラは、それぞれ1979年と1988年からAPIで働いていました。1992年、APIと労働組合の間で労働協約(CBA)交渉が行き詰まり、組合はストライキを予告しました。これを受けて、APIの主要顧客が部品の供給を停止。操業停止を余儀なくされたAPIは、従業員に一時帰休を命じました。ボアキナとガヨラもその対象となりました。

その後、労使交渉が妥結し、一部従業員は職場復帰しましたが、ガヨラを含む一部従業員は顧客からの注文が回復せず、復帰できませんでした。業績不振のため、APIは105人の従業員を対象とする整理解雇を実施。ボアキナも解雇対象となりました。一方、ガヨラは整理解雇の対象ではありませんでしたが、一時帰休以降、会社から呼び戻されることはありませんでした。

ボアキナとガヨラは、不当解雇などを訴えて労働委員会に訴えを起こしました。一方、APIは、労働組合によるストライキが違法であるとして訴訟を提起しました。労働委員会は、ストライキを違法と判断しましたが、ボアキナらの不当解雇の訴えを一部認め、APIに退職金と未払い賃金の支払いを命じました。APIはこれを不服として、国家労働関係委員会(NLRC)に上訴しましたが、NLRCは労働委員会の判断をほぼ支持しました。そこで、APIは最高裁判所に上訴したのです。

法的背景:退職金と会社役員の責任

フィリピン労働法では、正当な理由なく解雇された従業員は、復職と未払い賃金の支払いを求めることができます。しかし、会社が経営上の理由で従業員を解雇する場合(整理解雇)、従業員は退職金を受け取る権利があります。退職金の額は、勤続年数に応じて計算されます。

一方、会社は法人格を持つため、原則として会社の債務は会社自身が負い、会社の役員や株主が個人責任を負うことはありません。しかし、例外的に「法人格否認の法理」が適用され、会社の法人格が形骸化している場合や、会社が不正な目的のために利用されている場合などには、会社の役員や株主が会社の債務について個人責任を負うことがあります。

法人格否認の法理が適用されるのは、例えば、会社が債務を逃れるために意図的に資産を処分した場合や、家族経営の会社で経営者が個人的な目的で会社を動かしている場合などです。単に会社の代表者や株主であるというだけでは、個人責任を負う理由にはなりません。最高裁判所は、過去の判例(Santos vs. NLRC事件など)で、法人格否認の法理の適用は慎重であるべきとの立場を示しています。

最高裁の判断

最高裁は、まず、ボアキナとガヨラの解雇が整理解雇によるものであり、違法ストライキへの参加を理由としたものではないと認定しました。API自身も、解雇理由を整理解雇であると主張しており、ストライキを理由とした解雇ではないことを認めていました。したがって、最高裁は、NLRCがボアキナとガヨラに退職金の支払いを命じた判断を支持しました。

最高裁は、判決の中で次のように述べています。「私的被申立人らの雇用終了は、APIが採用した人員削減策によるものであり、以前の組合活動によるものではないことは明らかである。(中略)私的被申立人の人員削減は、ストライキ宣言に先行して実際に行われたものであるとNLRCが適切に観察したように、そう言うだけで十分であるはずである。」

次に、最高裁は、会社役員であるフランク・イーの個人責任について検討しました。最高裁は、イーがAPIの社長兼大株主であることを認めましたが、それだけでは個人責任を負わせる理由にはならないと判断しました。法人格否認の法理を適用するには、会社役員が不正な目的で会社を利用したり、悪意をもって違法行為を行ったりした場合に限られます。本件では、そのような事実は認められないと判断しました。

最高裁は、過去の判例(Sunio vs. National Labor Relations Commission事件)を引用し、次のように述べました。「記録上、フランク・イーが会社の整理解雇プログラムを実行するにあたり、悪意または悪意をもって行動したことを示すものは何も示されていない。したがって、APIとの連帯責任を負うものとしてNLRCによって彼が個人的に責任を負わされたことは、法的に正当化されない。」

結論として、最高裁は、NLRCの決定のうち、フランク・イーに個人責任を認めた部分を取り消し、その他の部分については支持しました。つまり、APIはボアキナとガヨラに退職金を支払う義務がありますが、フランク・イー個人がその責任を負う必要はないという判断が確定しました。

実務上の教訓

この判決から得られる実務上の教訓は、以下のとおりです。

  • 違法ストライキに参加した従業員であっても、整理解雇の対象となった場合は、退職金を受け取る権利がある。
  • 会社役員が会社の債務について個人責任を負うのは、法人格否認の法理が適用される非常に限られた場合に限られる。単に役職にあるだけでは個人責任を負わない。
  • 法人格否認の法理が適用されるのは、会社役員が不正な目的で会社を利用したり、悪意をもって違法行為を行ったりした場合。
  • 整理解雇を実施する際には、解雇理由を明確にし、適切な手続きを踏むことが重要。

重要なポイント

  • 違法ストライキと退職金:違法ストライキに参加した従業員でも、解雇理由が整理解雇であれば退職金を受け取れる。ストライキ参加そのものが退職金請求権を当然に失わせるわけではない。
  • 法人格否認の法理の厳格な適用:会社役員の個人責任は、例外的な場合に限られる。悪意や不正行為がなければ、原則として個人責任は問われない。
  • 整理解雇の適法性:整理解雇は、経営上の必要性に基づき、客観的かつ合理的な基準で行われる必要がある。手続きの適正さも重要。

よくある質問(FAQ)

  1. 質問:違法ストライキに参加したら、絶対に退職金はもらえないのですか?
    回答:いいえ、そうではありません。違法ストライキに参加した場合でも、解雇の理由がストライキへの参加ではなく、会社の経営上の都合による整理解雇であれば、退職金を受け取る権利があります。ただし、ストライキ中の違法行為などが解雇理由となる場合は、退職金が支払われないこともあります。
  2. 質問:会社の社長は、会社の借金について常に個人責任を負うのですか?
    回答:原則として、会社の社長が会社の借金について個人責任を負うことはありません。会社は法人格を持つため、債務は会社自身が負います。ただし、例外的に、会社が形骸化していて、社長が個人的な目的で会社を動かしているような場合には、法人格否認の法理が適用され、社長が個人責任を負うことがあります。
  3. 質問:法人格否認の法理は、どのような場合に適用されますか?
    回答:法人格否認の法理が適用されるのは、会社が債務逃れのために意図的に資産を隠したり、家族経営の会社で経営者が会社を私物化したりするなど、会社の法人格を無視することが正義にかなうと認められる場合に限られます。具体的には、詐欺的な行為や、法律を潜脱する目的で会社が利用されている場合などが該当します。
  4. 質問:整理解雇を有効に行うための注意点は?
    回答:整理解雇を有効に行うためには、まず、経営上の必要性があることが前提となります。その上で、解雇対象者の選定基準を客観的かつ合理的に定め、労働組合や従業員と十分に協議し、解雇予告期間を設け、適切な退職金を支払うなどの手続きを踏む必要があります。
  5. 質問:今回の判決は、今後の労働紛争にどのような影響を与えますか?
    回答:今回の判決は、違法ストライキに参加した従業員の権利と、会社役員の個人責任の範囲について、最高裁判所の明確な判断を示したものです。今後の労働紛争においても、これらの原則が尊重されると考えられます。特に、会社役員の個人責任を安易に認めるべきではないという最高裁の姿勢は、企業経営者にとって重要な指針となるでしょう。

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