労働組合費とエージェンシー・フィー:企業は未徴収分を支払う義務があるか?

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労働組合費のチェックオフ:企業が未徴収額を支払う義務は限定的

G.R. No. 110007, October 18, 1996

はじめに

労働組合費のチェックオフ制度は、労働組合の財政基盤を支える重要な仕組みです。しかし、企業が組合員の給与から組合費を徴収しなかった場合、その未徴収分を企業が支払う義務はあるのでしょうか? 本稿では、フィリピン最高裁判所の判決に基づき、この問題について解説します。

本件は、聖十字ダバオ大学(Holy Cross of Davao College, Inc.)と、同大学の労働組合であるホーリー・クロス・オブ・ダバオ・カレッジ・ユニオン-KAMAPI(Holy Cross of Davao College Union – KALIPUNAN NG MANGGAGAWANG PILIPINO (KAMAPI))との間で争われた事件です。争点は、団体交渉協約(CBA)の自動延長条項の解釈、および大学側の団体交渉拒否の有無でした。特に、大学が組合員の給与から組合費を徴収しなくなったことが問題となりました。

法的背景:チェックオフ制度とは

チェックオフ制度とは、企業が従業員の給与から労働組合費やエージェンシー・フィー(非組合員が団体交渉の恩恵を受けるために支払う費用)を天引きし、直接労働組合に納付する制度です。この制度は、労働組合の財政基盤を安定させるために重要な役割を果たします。

フィリピンの労働法(労働法典)では、チェックオフ制度について以下のように規定しています。

労働法第248条(e)項は、非組合員からのエージェンシー・フィー徴収を認めています。非組合員が団体交渉協約から利益を得ている場合、組合費と同額のエージェンシー・フィーを徴収することが認められています。

ただし、企業が組合費を徴収するためには、原則として従業員の書面による同意が必要です。例外として、労働組合の総会で過半数の賛成を得た決議があれば、企業は組合費を徴収できます(労働法第241条(n)項、(o)項)。

事件の経緯:聖十字ダバオ大学事件

本件では、聖十字ダバオ大学と労働組合KAMAPIとの間で、団体交渉協約の更新をめぐる紛争が発生しました。紛争の主な経緯は以下の通りです。

  • 1986年6月1日から1989年5月31日まで有効な団体交渉協約が締結された。
  • 1989年4月、KAMAPIは協約の2ヶ月延長を大学に要請し、大学側はこれを承認した。
  • 1989年7月、KAMAPI内で役員選挙が行われ、新役員が選出された。
  • その後、KAMAPIから離脱する動きがあり、別の労働組合が結成された。
  • 聖十字ダバオ大学は、組合員の給与からの組合費の徴収を停止した。
  • KAMAPIは大学に対し、団体交渉の拒否であるとして訴えを起こした。
  • 労働仲裁人は、大学に対し、KAMAPIとの団体交渉に応じること、および未徴収の組合費を支払うことを命じた。

大学側は、労働仲裁人の決定を不服として、最高裁判所に上訴しました。

最高裁判所の判断:企業の支払義務は限定的

最高裁判所は、労働仲裁人の判断の一部を覆し、大学が未徴収の組合費を支払う義務はないと判断しました。その理由として、以下の点を挙げています。

「法律上、企業が従業員の給与から天引きしなかった組合費や評価額を労働組合に直接支払う義務を定める規定はありません。企業が天引きを怠った場合、それは契約上の義務違反となり、不当労働行為の責任を負う可能性があります。(中略)しかし、その省略によって、企業は組合員から未徴収の会費または評価額、あるいは非組合員のエージェンシー・フィーの合計額について組合に責任を負うことはありません。」

最高裁判所は、チェックオフ制度は労働組合の利益のために設けられたものであり、組合費の支払義務はあくまで従業員個人にあると指摘しました。企業は、組合費の天引きと組合への納付を行う義務を負いますが、未徴収分を肩代わりする義務はないと判断しました。

最高裁判所は、以下のように述べています。

「チェックオフは真実、企業に余分な管理および簿記コストという形で追加の負担を課します。これは、労働組合の要請により、その生活と維持に必要な会費の徴収を容易にするために、経営陣が引き受けた負担です。(中略)企業がチェックオフ協定の実施を怠ったり拒否したりした場合、論理と慎重さから、労働組合自体がそのメンバーからの組合費と評価額(および非組合員の従業員からのエージェンシー・フィー)の徴収を引き受けることを指示します。これはもちろん、企業を不当労働行為で訴えることを妨げるものではありません。」

実務上の影響:企業が留意すべき点

本判決から、企業は以下の点を留意する必要があります。

  • 企業は、団体交渉協約に基づき、組合員の給与から組合費を天引きし、労働組合に納付する義務を負う。
  • ただし、企業は、未徴収の組合費を肩代わりする義務はない。
  • 企業が組合費の天引きを怠った場合、不当労働行為の責任を問われる可能性がある。

重要な教訓

  • 企業は、団体交渉協約の内容を正確に理解し、遵守する必要がある。
  • 労働組合との良好な関係を維持し、紛争を未然に防ぐことが重要である。
  • 組合費の天引きを怠った場合、速やかに労働組合と協議し、適切な対応を取る必要がある。

よくある質問

Q1: 企業は、どのような場合に組合費の天引きを停止できますか?

A1: 従業員が労働組合から脱退した場合、または労働組合が従業員の代表権を失った場合などです。

Q2: 企業が組合費の天引きを怠った場合、どのような法的責任を負いますか?

A2: 不当労働行為の責任を問われる可能性があります。また、労働組合から損害賠償請求を受ける可能性もあります。

Q3: 労働組合は、企業が組合費の天引きを怠った場合、どのような対応を取るべきですか?

A3: まずは企業と協議し、天引きの再開を求めるべきです。協議がうまくいかない場合は、労働紛争解決機関に仲裁を申し立てることもできます。

Q4: エージェンシー・フィーとは何ですか?

A4: 労働組合の組合員ではない従業員が、団体交渉によって得られた利益を享受するために支払う費用です。

Q5: 企業は、非組合員からのエージェンシー・フィー徴収を拒否できますか?

A5: いいえ、できません。労働法は、非組合員からのエージェンシー・フィー徴収を認めています。

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