取締役の解任と会社内部紛争:フィリピンにおける管轄権の明確化

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取締役解任は会社内部紛争か?NLRCとSECの管轄権の境界線

G.R. No. 113928, February 01, 1996

解任された取締役が不当解雇を訴えた場合、その訴えは労働問題として扱われるべきか、それとも会社内部の問題として扱われるべきか?この微妙な境界線を明確にした最高裁判所の判例を分析します。

はじめに

会社経営において、取締役の解任は時に避けられない問題です。しかし、その解任が法的な紛争に発展した場合、どこで争うべきでしょうか?労働紛争として国家労働関係委員会(NLRC)に訴えるべきか、それとも会社内部紛争として証券取引委員会(SEC)に訴えるべきか?この判断を誤ると、訴訟手続きが長引くだけでなく、最悪の場合、訴え自体が無効になる可能性もあります。本記事では、この問題について最高裁判所が示した重要な判断基準を、実際の判例に基づいて解説します。

法的背景:NLRCとSECの管轄権

フィリピンでは、労働問題と会社内部紛争はそれぞれ異なる機関が管轄しています。労働問題は原則としてNLRCが管轄し、不当解雇などの訴えを扱います。一方、会社内部紛争はSECが管轄し、取締役の選任や解任、株主間の紛争などを扱います。この区別は、大統領令902-A第5条に明確に定められています。重要な条項を以下に引用します。

「SEC. 5. 証券取引委員会は、既存の法律および政令に基づいて明示的に付与された、企業、パートナーシップ、およびその他の形態の登録団体に対する規制および裁定機能に加えて、以下を含む訴訟を審理および決定するための本来の排他的管轄権を有する。

  • (b) 株主、メンバー、またはアソシエイト間、それらのいずれかまたはすべてと、それぞれが株主、メンバーまたはアソシエイトである企業、パートナーシップまたは協会との間、およびそのような企業、パートナーシップまたは協会と国家との間の企業内またはパートナーシップ関係から生じる紛争。
  • (c) そのような企業、パートナーシップまたは協会の取締役、受託者、役員またはマネージャーの選任または任命における紛争。」

しかし、取締役が同時に会社の従業員である場合、この区別は曖昧になります。例えば、取締役が解任された理由が、経営上の判断なのか、それとも労働契約上の問題なのかによって、管轄権が異なってくる可能性があります。

事件の経緯:ピアソン&ジョージ事件

ピアソン&ジョージ事件は、まさにこの問題が争われた事例です。レオポルド・ロレンテ氏は、ピアソン&ジョージ社の取締役であり、マネージング・ディレクター(管理部長)を務めていました。しかし、株主総会で取締役に再選されず、その結果、管理部長の職も失いました。ロレンテ氏はこれを不当解雇であるとしてNLRCに訴えましたが、会社側はSECの管轄であると主張しました。以下に、事件の経緯をまとめます。

  1. ロレンテ氏は取締役兼管理部長として選任された。
  2. 会社はロレンテ氏を不正行為を理由に一時的に停職処分とした。
  3. ロレンテ氏は停職処分の解除と株式の引き渡しを要求した。
  4. 株主総会でロレンテ氏は取締役に再選されなかった。
  5. 取締役会は管理部長の職を廃止した。
  6. ロレンテ氏は不当解雇としてNLRCに訴えを起こした。

この事件で、NLRCは当初、ロレンテ氏が単なる取締役ではなく、会社の従業員としての側面も持っているとして、自らの管轄を認めました。しかし、最高裁判所は、この判断を覆し、SECに管轄権があるとの判断を下しました。

最高裁判所は、判決の中で次のように述べています。「ロレンテ氏が管理部長の職を失ったのは、取締役に再選されなかったことが主な理由である。管理部長の職は、その占有者が取締役であることを前提としている。したがって、取締役ではない者、または取締役でなくなった者は、管理部長に選任または任命されることはできない。」

さらに、「新しい取締役の選任、ロレンテ氏の取締役としての再選の拒否、管理部長の職の喪失、または当該職の廃止に関連する、またはそれに付随する質問は、すべて企業内の問題である。それらから生じる紛争は企業内紛争であり、未解決の場合、SECのみが適切な訴訟で解決できる。」とも述べています。

実務上の教訓:企業と役員の法的関係

この判例から得られる教訓は、取締役の解任が単なる労働問題ではなく、会社内部紛争として扱われる場合があるということです。特に、取締役が会社の役員を兼務している場合、その解任の理由や経緯によっては、SECの管轄となる可能性があります。企業としては、取締役の選任や解任の手続きを慎重に行い、法的なリスクを最小限に抑える必要があります。

重要なポイント

  • 取締役の解任は、常に労働問題として扱われるとは限らない。
  • 取締役が会社の役員を兼務している場合、SECの管轄となる可能性がある。
  • 取締役の選任や解任の手続きは、法的なリスクを考慮して慎重に行う必要がある。

よくある質問(FAQ)

Q1: 取締役が不当解雇を訴えた場合、必ずSECの管轄になりますか?

A1: いいえ、必ずしもそうではありません。解任の理由や経緯、取締役の会社における役割などによって判断が異なります。労働者としての側面が強い場合は、NLRCの管轄となる可能性もあります。

Q2: SECとNLRCのどちらに訴えるべきか迷った場合はどうすればよいですか?

A2: 弁護士に相談し、具体的な状況を詳しく説明した上で、適切な訴訟手続きを選択することをお勧めします。

Q3: 取締役の解任の手続きで注意すべき点はありますか?

A3: 会社の定款や内規に定められた手続きを遵守することはもちろん、解任の理由を明確にし、取締役本人に十分な説明を行うことが重要です。

Q4: この判例は、中小企業にも適用されますか?

A4: はい、企業の規模に関わらず、取締役の解任に関する法的な原則は同様に適用されます。

Q5: 取締役の解任をめぐる紛争を未然に防ぐためにはどうすればよいですか?

A5: 取締役との間で明確な契約を締結し、役割や責任、解任の条件などを明確にしておくことが重要です。また、日頃から良好なコミュニケーションを図り、相互理解を深めることも大切です。

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