海外就職詐欺に注意!違法な人材派遣と詐欺罪 – 最高裁判所判例解説
G.R. No. 130067, 1999年9月16日 (人民対モレノ事件)
海外での就職を夢見る人々を狙った詐欺事件は後を絶ちません。甘い言葉で近づき、高額な手数料を騙し取る悪質な手口は、多くの人に経済的、精神的な苦痛を与えています。本稿では、フィリピン最高裁判所の判例「人民対モレノ事件」を基に、違法な人材派遣と詐欺罪の成立要件、そして海外就職詐欺から身を守るための教訓を解説します。
違法な人材派遣(不法募集)と詐欺(エスタファ)罪
フィリピンでは、海外での雇用を目的とした人材募集・派遣事業は、政府機関POEA(Philippine Overseas Employment Administration:フィリピン海外雇用庁)の許可を受けた者のみが行うことができます。無許可で人材募集を行う行為は「違法な人材派遣(不法募集)」として、労働法で厳しく罰せられます。また、違法な人材派遣に加えて、求職者から手数料を騙し取る行為は、刑法上の詐欺罪(エスタファ)にも該当する可能性があります。
本判例で問題となったのは、まさにこの違法な人材派遣と詐欺罪の成否でした。被告人は、海外就職を希望する複数の被害者に対し、カナダや香港での就職を斡旋できると偽り、高額な手数料を騙し取っていました。POEAの許可を得ていないにもかかわらず、あたかも許可を得ているかのように装い、求職者を信用させたことが、違法行為として認定されました。
労働法第13条(b)は、人材募集・派遣行為を以下のように定義しています。
「労働者の勧誘、登録、契約、輸送、利用、雇用または調達を行うあらゆる行為をいい、国内外を問わず、営利目的であるか否かを問わず、紹介、連絡サービス、雇用を約束または広告することも含む。ただし、有償で2人以上の者に雇用を提供または約束する者は、人材募集・派遣に従事しているとみなされる。」
また、違法な人材派遣(大規模不法募集)は、労働法第38条(b)および第39条(a)で以下のように定義・処罰されています。
「第38条 違法な人材派遣―(a) 第34条に列挙された禁止行為を含むいかなる人材募集活動も、許可証または許可保有者でない者によって行われる場合は、違法とみなされ、本法の第39条に基づき処罰される。(b) 違法な人材派遣がシンジケートによって、または大規模に行われた場合、経済的破壊行為に関わる犯罪とみなされ、第39条に従って処罰される。
違法な人材派遣は、3人以上の者が共謀し、および/または共謀して、本項第1段落に定義された違法または不法な取引、事業または計画を遂行した場合に、シンジケートによって行われたとみなされる。違法な人材派遣は、3人以上の者に対して、個別または集団として行われた場合に、大規模に行われたとみなされる。
第39条 罰則―(a) 違法な人材派遣が本項で定義される経済的破壊行為を構成する場合、終身刑および10万ペソの罰金が科せられる。xxx」
大規模な違法な人材派遣罪の成立要件は、以下の3点です。
- 被告人が労働法第13条(b)に定義される人材募集活動、または労働法第34条のその他の禁止行為を行ったこと。
- 被告人が労働者の募集・派遣を合法的に行うための許可証または許可を持っていなかったこと。
- 被告人が3人以上の者に対して、個別または集団として上記行為を行ったこと。
事件の経緯:甘い誘い文句と嘘
被告人のアニセタ・“アニー”・モレノは、バギオ市で被害者らに出会いました。モレノは、パーティーで知り合った被害者らに、「自分は海外就職の斡旋業者である」と自己紹介し、カナダや香港でのベビーシッターや家政婦の仕事を紹介できると持ちかけました。
被害者らは、モレノの言葉を信用し、海外就職の申し込みを行いました。モレノは、被害者らに対し、履歴書や資格証明書などの書類の提出を求め、さらに「手数料」として高額な金銭を要求しました。被害者らは、言われるがままに手数料を支払い、海外での就職を心待ちにしていました。
しかし、約束の期日を過ぎても、モレノから就職に関する連絡は一切ありませんでした。被害者らが連絡を取ろうとしても、モレノは連絡を絶ち、引っ越しまでしていました。不審に思った被害者らは、POEAに問い合わせたところ、モレノが無許可の人材斡旋業者であることが判明しました。そこで初めて、被害者らは詐欺に遭ったことに気づき、警察に被害届を提出しました。
裁判では、モレノは一貫して無罪を主張しました。彼女は、「自分は旅行代理店の代理人に過ぎず、観光ビザの申請手続きを代行しただけだ」と述べました。しかし、裁判所は、モレノの主張を退け、被害者らの証言やPOEAの証明書などから、モレノが違法な人材派遣を行っていた事実を認定しました。また、モレノが手数料を騙し取っていたことも、詐欺罪の成立を裏付ける重要な証拠となりました。
最高裁判所も、一審の判断を支持し、モレノに対し、違法な人材派遣(大規模不法募集)罪と詐欺罪の有罪判決を言い渡しました。判決では、モレノの行為が「海外就職を夢見る人々の弱みにつけ込んだ悪質な詐欺行為である」と断罪されました。
最高裁判所は判決の中で、以下の点を強調しました。
「被告人モレノは、自らが海外労働者を派遣する能力、権限、権威を有すると偽って虚偽の口実を用いた。原告であるバキアンとバヤニから15,400ペソと15,000ペソをそれぞれ受け取る前に、または同時に、虚偽の口実または不実表示が行われた。バキアンとバヤニの両名は、これらの虚偽の口実と不実表示を信用し、損害と不利益を被った。」
海外就職詐欺から身を守るために
本判例は、海外就職詐欺の手口と、その背後にある法的責任を明確に示しています。海外就職を希望する人々は、この判例から何を学ぶべきでしょうか。最も重要な教訓は、「甘い言葉には裏がある」ということです。高収入、好待遇、簡単な手続きなど、魅力的な条件ばかりを提示する業者には、警戒心を持つ必要があります。
海外就職を検討する際には、以下の点に注意しましょう。
- POEAの許可業者であるか確認する:POEAのウェブサイトで、許可業者名簿を検索できます。
- 契約内容をよく確認する:手数料、給与、労働条件などを書面で確認し、不明な点は必ず質問しましょう。
- 安易に高額な手数料を支払わない:手数料の相場を調べ、不当に高額な手数料を要求する業者には注意しましょう。
- 複数の業者を比較検討する:一つの業者に決めずに、複数の業者から話を聞き、比較検討しましょう。
- 相談窓口を活用する:POEAや消費者センターなど、相談窓口に気軽に相談しましょう。
本判例から得られる教訓
- 無許可の人材派遣は違法であり、刑事罰の対象となる。
- 海外就職斡旋を装った詐欺は、詐欺罪(エスタファ)に該当する。
- 求職者は、業者選びを慎重に行い、甘い言葉に騙されないように注意する必要がある。
- POEAなどの相談窓口を活用し、疑問や不安を解消することが重要である。
よくある質問(FAQ)
Q1. POEAの許可業者とは何ですか?
A1. POEA(Philippine Overseas Employment Administration:フィリピン海外雇用庁)から海外人材派遣事業の許可を得ている業者のことです。許可業者は、POEAの監督下で適正な事業運営を行うことが義務付けられています。
Q2. 違法な人材派遣業者を見分ける方法はありますか?
A2. POEAの許可業者名簿に掲載されていない業者、高額な手数料を要求する業者、契約内容が不明瞭な業者などは、違法な業者の可能性があります。POEAに確認することをお勧めします。
Q3. 詐欺被害に遭ってしまった場合、どうすれば良いですか?
A3. すぐに警察に被害届を提出し、POEAや消費者センターなどの相談窓口に相談してください。証拠となる書類(契約書、領収書など)は大切に保管しておきましょう。
Q4. 海外就職斡旋業者の選び方のポイントは?
A4. POEAの許可業者であること、契約内容が明確であること、手数料が適正であること、実績があることなどがポイントです。複数の業者を比較検討し、信頼できる業者を選びましょう。
Q5. フィリピンで海外就職の相談ができる窓口はありますか?
A5. POEA(Philippine Overseas Employment Administration)や、消費者センター(Department of Trade and Industry – DTI)などで相談できます。


Source: Supreme Court E-Library
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