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証拠不十分の申し立て(Demurrer to Evidence)は安易に認められるべきではない:Resoso v. Sandiganbayan事件
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G.R. No. 124140, 1999年11月25日
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フィリピンの刑事訴訟において、被告人は検察側の証拠が有罪を合理的な疑いを超えて証明するには不十分であると判断した場合、「証拠不十分の申し立て(Demurrer to Evidence)」を裁判所に提出することができます。この申し立てが認められると、被告人は無罪となります。しかし、裁判所が証拠不十分の申し立てを安易に認めるべきではないという原則を確立したのが、Resoso v. Sandiganbayan事件です。本稿では、この最高裁判所の判決を分析し、その教訓と実務上の意義を解説します。
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本件の概要と争点
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Resoso事件は、国家食肉検査委員会(NMIC)の幹部であったベルナルド・B・レソソ氏が、公文書偽造罪で起訴された事件です。レソソ氏は、輸入許可証(Veterinary Quarantine Clearances to Import:VOC)の品質、数量、原産国などを改ざんしたとして告発されました。第一審のサンドゥガンバヤン(Sandiganbayan:背任裁判所)において、検察側証拠調べ終了後、レソソ氏は証拠不十分の申し立てをしましたが、これは否認されました。この否認決定を不服として、レソソ氏は certiorari, prohibition, mandamus の申立てを最高裁判所に行ったのが本件です。本件の主な争点は、サンドゥガンバヤンがレソソ氏の証拠不十分の申し立てを否認したことが、重大な裁量権の濫用にあたるかどうかでした。
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証拠不十分の申し立て(Demurrer to Evidence)とは
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証拠不十分の申し立て(Demurrer to Evidence)は、フィリピン規則裁判所規則119条17項に規定されています。これは、刑事事件において、検察官が証拠を提示した後、被告人が裁判所に対し、検察官が提示した証拠だけでは有罪判決を下すのに十分ではないと主張するものです。裁判所がこの申し立てを認めると、被告人は無罪となります。証拠不十分の申し立ては、被告人が自己の証拠を提示する前に、裁判を早期に終結させるための重要な防御手段です。
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規則119条17項は以下のように規定しています。
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「第17条 証拠不十分の申し立て。u{20}検察官が証拠を完了した後、裁判所が職権で、または被告人の申し立てにより、提示された証拠が有罪判決を支持するのに不十分であると認めた場合、裁判所は事件を却下することができる。被告人が自己の証拠を提示する権利を放棄することなく申し立てを行った場合、申し立てが否認されたとしても、被告人は引き続き自己の弁護を行うことができる。」
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証拠不十分の申し立てが認められるためには、検察側の証拠が「有罪を合理的な疑いを超えて証明する」という刑事訴訟における立証責任を果たしていないことが明白である必要があります。単に証拠が弱いというだけでは足りず、証拠が全くない、または明らかに有罪を証明できない場合に限られます。裁判所は、証拠を最も被告人に有利なように解釈する義務はなく、証拠全体を総合的に判断して、申し立てを認めるかどうかを決定します。
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Resoso事件の事実経過
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レソソ氏は、7件の公文書偽造罪で起訴されました。起訴状によると、レソソ氏はNMICの幹部としての地位を利用し、輸入許可証の内容を改ざんし、公共の利益を損なったとされています。具体的には、輸入される食肉製品の品質、数量、原産国などを許可証上で変更したとされています。
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第一審のサンドゥガンバヤンでは、検察側が4人の証人を尋問し、証拠書類を提出しました。検察側の証人としては、NMICの記録係、農務省動物産業局長、NMICの広報担当官、元農務長官などが証言しました。検察側の証拠調べ終了後、レソソ氏は証拠不十分の申し立てを提出しました。レソソ氏は、検察側の証拠自体から、自身の有罪が合理的な疑いを超えて証明されていないと主張しました。しかし、サンドゥガンバヤンは、1996年2月2日の決議でこの申し立てを否認しました。サンドゥガンバヤンは、否認理由として、「現段階では、被告人の善意という弁護は明らかではない」と指摘しました。さらに、文書の改ざんは、許可されていない行為を許可するように文書の内容を変更するものであり、公共文書の完全性に対する侵害であると判断しました。
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レソソ氏は、再考の申し立てを行いましたが、これも1996年3月12日の決議で否認されました。サンドゥガンバヤンは、再考の申し立てを否認する理由として、検察側の証拠から、当時の農務長官が改ざんを許可したという事実は認められないと指摘しました。レソソ氏は、サンドゥガンバヤンのこれらの決定を不服として、最高裁判所に certiorari, prohibition, mandamus の申立てを行ったのが本件です。
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最高裁判所の判断
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最高裁判所は、サンドゥガンバヤンの決定を支持し、レソソ氏の申立てを棄却しました。最高裁判所は、 certiorari, prohibition, mandamus の申立ては、裁判官の事実認定や法的結論の誤りを正すためのものではないと指摘しました。証拠不十分の申し立ての否認決定に判断の誤りがあったとしても、それは重大な裁量権の濫用とは言えず、 certiorari の対象とはならないと判断しました。
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最高裁判所は、判決の中で以下の重要な点を強調しました。
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「証拠不十分の申し立ての否認に判断の誤りがあったとしても、これは certiorari によって是正されるべき重大な裁量権の濫用とは見なされない。(中略)そのような不利な中間命令が下された場合、救済策は certiorari や prohibition に頼ることではなく、適正な手続きに従って訴訟を継続し、不利な判決が下された場合に、法律で認められた方法で上訴することである。」
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最高裁判所は、サンドゥガンバヤンの事実認定が、恣意的、推測的、または事実誤認に基づいているとは認められないと判断しました。したがって、サンドゥガンバヤンが証拠不十分の申し立てを否認したことは、裁量権の範囲内であり、違法ではないと結論付けました。
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実務上の意義と教訓
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Resoso v. Sandiganbayan事件は、証拠不十分の申し立て(Demurrer to Evidence)の基準と、 certiorari の範囲に関する重要な判例です。この判決から得られる実務上の教訓は以下の通りです。
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- 証拠不十分の申し立ては、検察側の証拠が明らかに有罪を証明できない場合に限られる。単に証拠が弱いというだけでは認められません。被告人は、検察側の証拠が「有罪を合理的な疑いを超えて証明する」という立証責任を果たしていないことを明確に示す必要があります。
- 裁判所は、証拠不十分の申し立てを安易に認めるべきではない。裁判所は、証拠全体を総合的に判断し、慎重に検討する必要があります。特に、事実認定に関する判断は、 certiorari の対象とはなりにくいことを理解しておく必要があります。
- 証拠不十分の申し立てが否認された場合、 certiorari ではなく、通常の訴訟手続きに従って上訴すべきである。 certiorari は、重大な裁量権の濫用があった場合に限られ、単なる判断の誤りを正すためのものではありません。
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今後の実務への影響
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Resoso事件の判決は、その後の多くの判例で引用されており、証拠不十分の申し立てに関する重要な基準となっています。弁護士は、証拠不十分の申し立てを検討する際、本判決の原則を念頭に置き、申し立てが認められる可能性を慎重に評価する必要があります。また、検察官は、証拠調べの段階で、有罪を合理的な疑いを超えて証明できる十分な証拠を提示する責任を改めて認識する必要があります。
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よくある質問(FAQ)
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Q1. 証拠不十分の申し立て(Demurrer to Evidence)は、どのような場合に提出できますか?
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A1. 検察官が証拠調べを完了した後、検察側の証拠だけでは有罪判決を下すのに十分ではないと判断した場合に提出できます。証拠が明らかに有罪を証明できない場合に限られます。
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Q2. 証拠不十分の申し立てが認められると、どうなりますか?
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A2. 裁判所が申し立てを認めると、被告人は無罪となります。裁判はそこで終了し、被告人はそれ以上の弁護を行う必要はありません。
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Q3. 証拠不十分の申し立てが否認された場合、どうすればよいですか?
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A3. 証拠不十分の申し立てが否認されても、被告人は引き続き自己の弁護を行うことができます。否認決定を不服として certiorari を申し立てることは適切ではなく、通常の訴訟手続きに従って上訴すべきです。
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Q4. certiorari は、どのような場合に利用できますか?
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A4. certiorari は、下級裁判所が重大な裁量権の濫用を行った場合に、その決定を審査し、是正するための特別な訴訟手続きです。単なる判断の誤りを正すためのものではありません。
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Q5. 証拠不十分の申し立てを成功させるためのポイントは何ですか?
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A5. 検察側の証拠を詳細に分析し、証拠が有罪を合理的な疑いを超えて証明していない点を具体的に指摘することが重要です。また、裁判所に対し、証拠を最も被告人に有利なように解釈する義務はないことを理解させる必要があります。
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Q6. Resoso事件は、弁護士にとってどのような教訓を与えてくれますか?
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A6. 弁護士は、証拠不十分の申し立てを安易に考えるべきではなく、申し立てが認められるためには、検察側の証拠が明らかに不十分であることを示す必要があることを理解する必要があります。また、 certiorari は万能の救済手段ではないことを認識し、通常の訴訟手続きを適切に利用することが重要です。
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ASG Lawは、フィリピン法に関する専門知識と豊富な経験を持つ法律事務所です。証拠不十分の申し立てを含む刑事訴訟に関するご相談は、ぜひkonnichiwa@asglawpartners.comまでご連絡ください。また、お問い合わせページからもお気軽にお問い合わせいただけます。刑事事件でお困りの際は、ASG Lawにお任せください。
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