共謀者は、直接的な実行行為者でなくても殺人罪で有罪となる
[G.R. No. 105284, July 08, 1997] フィリピン国 vs. イグナシオ・ズミル
イントロダクション
共謀罪は、複数の人間が犯罪を計画した場合、たとえ全員が実行行為に直接関与していなくても、全員がその犯罪の責任を負うという法原則です。この原則は、犯罪の抑止と、共謀者の責任追及において非常に重要です。例えば、強盗計画を立て、実行役と見張り役に分かれた場合、見張り役も強盗罪の共犯として処罰される可能性があります。今回の最高裁判所の判例は、この共謀罪の原則が殺人罪にも適用されることを明確に示しました。
本件は、イグナシオ・ズミルが、ニコラス・オリバーと共にレオポルド・エンペリオ・シニアを殺害したとして殺人罪で起訴された事件です。オリバーは有罪を認めた一方、ズミルは否認しました。しかし、最高裁判所は、ズミルの行為が共謀の一部であると判断し、殺人罪の有罪判決を支持しました。この判決は、共謀罪における責任範囲を理解する上で重要な判例となります。
法的背景:共謀罪とトレチャリー
フィリピン刑法第8条は共謀について、「二人以上の者が犯罪の実行に合意し、実行を決意したときに共謀が存在する」と規定しています。共謀が成立するためには、単なる同席や黙認ではなく、犯罪実行の共通の意図が必要です。重要な原則は「一人の行為は全体の行為(The act of one is the act of all)」であり、共謀者は全員が犯罪全体について責任を負います。
例えば、フィリピン刑法第8条は以下のように規定しています。
第8条。共謀と提案された犯罪。— 共謀と提案された犯罪は、以下のように処罰されるものとする:
1. 犯罪を直接実行した者は、刑法の規則に従って処罰されるものとする。
2. 犯罪の実行に他人を強要または誘導した者は、犯罪の実行者として処罰されるものとする。
3. 犯罪の実行において共謀した者は、犯罪の実行者として処罰されるものとする。
本件では、共謀に加えて「トレチャリー(Treachery)」、すなわち不意打ちも重要な要素です。トレチャリーとは、攻撃が防御の手段を講じることなく行われ、意図的かつ非人間的な方法で実行されることを意味し、殺人罪を重罪に квалифицировать する обстоятельства となります。フィリピン刑法第14条16項はトレチャリーを以下のように定義しています。
第14条。酌量すべき重罪。— 次の状況は酌量すべき重罪である。
(16) 欺瞞、または不意打ち、または優位性を利用して、防御手段を講じることなく犯罪を実行した場合、または危険を冒すことなく、または犯罪者の側で犯罪の実行から生じる可能性のある反撃のリスクを冒すことなく、犯罪を実行した場合。
今回のケースでは、オリバーが被害者に最初に襲いかかり、ズミルがその後に攻撃を加えた行為が、トレチャリーに該当するかどうかが争点となりました。
判例の詳細:事実と裁判所の判断
1990年9月23日午後3時頃、レオポルド・エンペリオ・シニアとその家族が自宅でテレビを見ていたところ、ニコラス・オリバーが狩猟ナイフを持って家に押し入り、エンペリオ・シニアを刺そうとしました。エンペリオ・シニアは反撃し、オリバーを追い払いました。エンペリオ・シニアが家から出たところ、ズミルが竹の棒でエンペリオ・シニアの目を打ちました。エンペリオ・シニアは橋から転落し、その後オリバーによって刺殺されました。
裁判では、目撃者の証言が重視されました。妻ロジータ・エンペリオと近所の少年ジェネール・ディアボルドは、ズミルが竹の棒で被害者を殴打する様子を証言しました。一方、ズミルは犯行を否認し、オリバーもズミルは無罪だと証言しました。しかし、裁判所は目撃者の証言を信用し、ズミルが共謀して殺人を犯したと認定しました。
裁判所の判決理由の中で、特に重要な点は以下の点です。
「本裁判所は、ロジータ・エンペリオとジェネール・ディアボルドの目撃証言が、被告が被害者レオポルド・エンペリオを背後または側面から不意打ちしたことを十分に立証していると判断する。エンペリオは被告の攻撃を予期しておらず、攻撃を受けた際に転倒し、オリバーに対抗する力を完全に失った。」
また、ズミルが事件後すぐに逃亡したことも、有罪の証拠として考慮されました。裁判所は、逃亡は罪悪感の表れであると判断しました。
一審、控訴審を経て、最高裁判所は、一貫してズミルの有罪判決を支持しました。最高裁判所は、証拠に基づいて、ズミルがオリバーと共謀し、トレチャリーによってエンペリオ・シニアを殺害したと結論付けました。
実務上の意義と教訓
本判例は、共謀罪における責任の重さを改めて強調するものです。直接的な実行行為者でなくても、共謀に参加し、犯罪を助長する行為を行った場合、実行行為者と同等の責任を負う可能性があります。特に、殺人などの重大犯罪においては、共謀の罪は非常に重く、長期の懲役刑が科せられることになります。
企業や組織においては、従業員が共謀して不正行為を行うリスクを認識し、防止策を講じる必要があります。例えば、内部統制の強化、コンプライアンス教育の徹底、不正行為の早期発見システムの導入などが考えられます。個人レベルでも、犯罪に巻き込まれないよう、違法行為への関与は絶対に避けるべきです。
主な教訓
- 共謀罪は、実行行為者だけでなく、共謀者全員に責任を問う法原則である。
- 「一人の行為は全体の行為」という原則に基づき、共謀者は犯罪全体について責任を負う。
- トレチャリー(不意打ち)は、殺人罪を重罪とする重要な要素である。
- 犯罪後の逃亡は、罪悪感の証拠とみなされることがある。
- 違法行為への関与は絶対に避け、共謀のリスクを認識することが重要である。
よくある質問(FAQ)
Q1. 共謀罪とは具体的にどのような罪ですか?
A1. 共謀罪とは、複数人で犯罪を実行する合意をすることによって成立する罪です。フィリピン法では、共謀者は実行行為者と同等の責任を負います。
Q2. 共謀はどのように証明されるのですか?
A2. 共謀の証明は、直接的な証拠だけでなく、状況証拠からも可能です。例えば、共謀者の間の連絡、犯行前後の行動、目撃証言などが考慮されます。
Q3. 私は直接殺人を犯していませんが、共謀罪で殺人罪になることはありますか?
A3. はい、あります。共謀が認められれば、たとえ直接的な実行行為者でなくても、殺人罪の共犯として処罰される可能性があります。
Q4. 単に犯罪現場にいただけでも共謀罪になりますか?
A4. いいえ、単に犯罪現場にいただけでは共謀罪にはなりません。共謀罪が成立するためには、犯罪実行の共通の意図が必要です。
Q5. 共謀罪で有罪になった場合、どのような刑罰が科せられますか?
A5. 共謀罪で有罪になった場合、実行行為者と同じ刑罰が科せられます。殺人罪の場合、重い懲役刑が科せられる可能性があります。
本記事は情報提供のみを目的としており、法的助言ではありません。具体的な法的問題については、必ず専門の弁護士にご相談ください。
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Source: Supreme Court E-Library
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