抵当権実行後の不足額請求: chattel mortgage 法が優先

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抵当権実行後の不足額請求は可能:シャテル抵当法が民法の規定に優先

最高裁判所判例 G.R. No. L-11466、1999年5月23日

フィリピンで事業を運営する企業や個人事業主にとって、融資と担保は日常的な問題です。融資の担保として動産抵当(Chattel Mortgage)が設定されることは珍しくありません。もし債務者が返済不能になった場合、債権者は担保である動産を売却(抵当権実行)して債権回収を図りますが、売却代金が債権額に満たない場合、不足額を債務者に請求できるのでしょうか?この疑問に対し、最高裁判所はアブラサ対イグナシオ事件(G.R. No. L-11466)において、シャテル抵当法が民法の規定に優先し、不足額請求が可能であるとの重要な判断を示しました。本稿では、この判例を詳細に分析し、実務上の重要なポイントを解説します。

シャテル抵当と不足額請求:フィリピン法における法的根拠

シャテル抵当とは、動産を担保とする抵当権の一種であり、フィリピンではシャテル抵当法(Act No. 1508)によって規律されています。債務不履行が発生した場合、債権者は担保動産を競売にかけることができます。しかし、競売代金が債権額に満たない場合、不足額を債務者に請求できるか否かが問題となります。民法第2115条は質権に関する規定で、質物の売却代金が債権額に満たない場合でも、債権者は不足額を請求できないと定めています。一方、シャテル抵当法には不足額請求を明確に禁止する規定はありません。この点について、民法第2141条は「質権に関する本法典の規定は、シャテル抵当法と抵触しない限りにおいて、シャテル抵当に適用されるものとする」と規定しており、民法とシャテル抵当法の関係が問題となります。

民法第2115条の条文を見てみましょう。

「第2115条—質物の売却は、その売却代金が元本債務、利息及び適切な場合の費用に等しいか否かにかかわらず、主たる債務を消滅させる。売却代金が前記金額を超える場合は、別段の合意がない限り、債務者はその超過額を請求することはできないものとし、売却代金が前記金額に満たない場合も、反対の合意があっても、債権者は不足額を回収することはできないものとする。」

この条文だけを見ると、シャテル抵当においても不足額請求は認められないようにも思えます。しかし、最高裁判所はアブラサ対イグナシオ事件において、シャテル抵当法と民法の関係を明確にしました。

アブラサ対イグナシオ事件:最高裁判所の判断

アブラサ対イグナシオ事件は、債務者イグナシオが債権者アブラサから借り入れた金銭の担保として、自動車にシャテル抵当を設定した事案です。イグナシオが返済を怠ったため、アブラサは抵当権を実行し、自動車を競売にかけましたが、売却代金は債権額に満たなかったため、不足額の支払いを求めて訴訟を提起しました。第一審裁判所は、民法第2141条と第2115条を根拠に、不足額請求は認められないとしてアブラサの請求を棄却しました。これに対し、アブラサは上訴しました。

最高裁判所は、第一審裁判所の判断を覆し、アブラサの請求を認めました。最高裁判所は、民法第2141条は、民法の質権に関する規定がシャテル抵当法と抵触しない範囲でのみ適用されると解釈すべきであり、シャテル抵当法と民法の規定が抵触する場合は、シャテル抵当法が優先すると判断しました。そして、シャテル抵当法には不足額請求を禁止する規定がないことを重視し、不足額請求を認めるべきであると結論付けました。

最高裁判所は判決の中で、シャテル抵当法第14条を引用し、抵当権実行後の売却代金の分配順序について言及しました。

「第14条。抵当権者は、その執行者、管理者または譲受人は、債務不履行の時から30日後、抵当財産またはその一部を、抵当設定者の居住地または財産の所在地である地方自治体の公共の場所において、公務員による公売にかけることができる。ただし、かかる売却の期日、場所、および目的の通知は、かかる地方自治体の2つ以上の公共の場所に少なくとも10日間掲示され、抵当権者、その執行者、管理者または譲受人は、抵当設定者またはその下位にある者およびその後の抵当権者を、売却の期日および場所について、書面による通知を直接本人に送付するか、または地方自治体内に居住している場合はその住居に置いていくか、または地方自治体外に居住している場合は郵便で送付することにより、売却の少なくとも10日前に通知しなければならない。

売却を行う公務員は、その後30日以内に、その行為の報告書を書面で作成し、抵当が記録されている登記所に提出し、登記官はこれを記録するものとする。財産を売却する公務員の報酬は、法律第190号およびその改正で規定されている執行売却の場合と同じとし、公務員の報告書を登録するための登記官の報酬は、売却費用の一部として課税され、公務員が登記官に支払うものとする。報告書には、売却された物品を詳細に記述し、各物品について受け取った金額を記載するものとし、抵当によって作成された先取特権の免除として機能するものとする。かかる売却の収益は、まず、保管および売却の費用および経費の支払いに充当され、次に、かかる抵当によって担保された要求または債務の支払いに充当され、残余は、その順序で後順位の抵当権者を保有する者に支払われ、抵当を支払った後の残高は、請求に応じて抵当設定者またはその下位にある者に支払われるものとする。

最高裁判所は、マニラトレーディングアンドサプライ対タマラウプランテーション事件(47 Phil., 513)の判例も引用し、シャテル抵当は債務の担保としてのみ提供されるものであり、債務不履行の場合に債務の弁済として提供されるものではないと改めて強調しました。競売代金が債権額に満たない場合でも、債権者は不足額を請求できるという原則を再確認しました。

「シャテル抵当は「条件付売買」であると法律第1506号第3条が規定しているのは事実であるが、さらに「債務の弁済またはそこに特定されたその他の義務の履行の担保としての動産売買である」とも規定している。第一審裁判所は、シャテル抵当に含まれる動産は、支払いが不履行になった場合に、債務の弁済としてではなく、担保としてのみ提供されるという事実を見過ごしていた。

第一審裁判所の理論は、担保として提供された抵当に含まれる動産が、担保債務額よりも高く売却された場合、債権者は、債務額を大幅に超える金額であっても、売却された全額を受け取る権利があるという、不条理な結論につながるだろう。そのような結果は、議会が法律第1508号を採択したときに意図したものではなかったはずである。法律の規定の下でその理論を支持する理由はないと思われる。動産の価値は時々、そして時には非常に急速に大きく変化する。たとえば、動産が大幅に価値を増し、その状態での売却が債務を大幅に超過して支払う結果になった場合、債権者が超過額を保持することを許可されていない場合、同じ論理によれば、債務者は、契約日と条件違反の間における動産の価格の低下の場合に不足額を支払う必要があるだろう。

ケント判事は、コメンタリーの第12版で、シャテル抵当に関する他の著者と同様に、「シャテル抵当の実行による売却の場合、不足額が発生した場合、抵当権者または債権者が不足額に対する訴訟を維持できることに疑問の余地はない」と述べている。そして、法律第1508号が私的売却を許可しているという事実は、そのような売却は、実際には、売却時の財産の価値を超える範囲で債務の弁済となるものではない。売却時に受け取った金額は、常に「誠実」かつ誠実な売却を必要とするが、比例弁済にすぎず、債務の不足額に対する訴訟を維持することができる。」(マニラトレーディングアンドサプライ対タマラウプランテーション社、47 Phil., 513; 下線は筆者による)

実務上の教訓とFAQ

アブラサ対イグナシオ事件は、シャテル抵当における不足額請求の可否について、重要な先例となる判例です。この判例により、フィリピンにおいては、シャテル抵当権者は抵当権実行後も不足額請求が可能であることが明確になりました。企業や個人事業主は、この判例を理解し、融資契約や担保設定を行う際に、不足額請求のリスクを十分に考慮する必要があります。

実務上の重要なポイント

  • シャテル抵当法優先の原則:民法とシャテル抵当法の規定が抵触する場合、シャテル抵当法が優先的に適用されます。
  • 不足額請求の可能性:シャテル抵当権者は、抵当権実行後も不足額請求が可能です。
  • 契約条項の重要性:融資契約や担保設定契約において、不足額請求に関する条項を明確に定めることが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. シャテル抵当とは何ですか?

A1. シャテル抵当とは、自動車、機械設備、商品在庫などの動産を担保として設定する抵当権の一種です。債務者が返済不能になった場合、債権者は担保動産を売却して債権回収を図ることができます。

Q2. シャテル抵当権を実行すると、債務はすべて消滅しますか?

A2. いいえ、シャテル抵当権を実行しても、売却代金が債権額に満たない場合、債務は全額消滅するわけではありません。債権者は不足額を債務者に請求することができます。

Q3. 民法第2115条はシャテル抵当に適用されないのですか?

A3. 民法第2115条は質権に関する規定であり、シャテル抵当には直接適用されません。民法第2141条により、シャテル抵当法と抵触しない範囲でのみ、民法の質権に関する規定がシャテル抵当に適用されます。

Q4. 不足額請求を避けるためにはどうすればよいですか?

A4. 債務者は、融資契約を締結する際に、返済計画を慎重に検討し、無理のない借入を行うことが重要です。また、担保価値が債権額を十分にカバーできるか確認することも重要です。

Q5. 債権者は常に不足額請求を行うのですか?

A5. 債権者が不足額請求を行うかどうかは、個別の状況によって異なります。債務者の支払い能力や、訴訟費用などを考慮して判断されます。

フィリピン法、特に担保法に関するご相談は、ASG Lawにお任せください。当事務所は、マカティ、BGCを拠点とし、企業法務に精通した弁護士が、日本語と英語でリーガルサービスを提供しています。シャテル抵当、債権回収に関するご相談はもちろん、その他フィリピン法に関するお困りごとがございましたら、お気軽にご連絡ください。

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Source: Supreme Court E-Library
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