フィリピンにおける企業内紛争の管轄:SEC対通常裁判所

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企業内紛争はSECの管轄:管轄機関を誤ると訴訟は無駄に終わる

G.R. No. 123639, 1997年6月10日

はじめに

ビジネスの世界では、紛争は避けられないものです。特に企業内紛争は、企業の運営、株主の権利、ひいては企業の存続そのものに重大な影響を与える可能性があります。しかし、紛争が発生した場合、どこに訴えれば良いのでしょうか?管轄機関を間違えると、時間と費用を浪費するだけでなく、訴訟自体が無効になる可能性もあります。本稿では、フィリピン最高裁判所のガルシア対控訴院事件(G.R. No. 123639)を基に、企業内紛争の管轄について解説します。本判例は、企業内紛争が証券取引委員会(SEC)の専属管轄に属することを明確に示しており、企業法務に携わる方々にとって重要な教訓を含んでいます。

法律背景:企業内紛争とSECの管轄

フィリピンでは、企業内紛争の管轄は、大統領令902-A号第5条によって、証券取引委員会(SEC)に専属的に与えられています。同条項は、SECが以下の事項に関する事件について、原告および専属的な管轄権を有することを規定しています。

第5条 証券取引委員会は、既存の法律および法令に基づき明示的に付与された、登録された会社、パートナーシップ、その他の形態の団体に対する規制および裁定機能に加え、以下の事項に関する事件を審理し、決定するための原告および専属的な管轄権を有するものとする:

a) 取締役会、ビジネスパートナー、役員、またはパートナーによる、公衆および/または株主、パートナー、会員、または委員会に登録された組織の利益を害する可能性のある詐欺および不実表示に相当するデバイスまたはスキーム。

b) 株主、会員、またはアソシエイト間、および/またはそれら全員と、それぞれが株主、会員、またはアソシエイトである会社、パートナーシップ、または団体との間、ならびに会社、パートナーシップ、または団体と国家との間の企業内またはパートナーシップ関係から生じる紛争。ただし、国家との関係においては、個々のフランチャイズまたはそのような団体としての存在権に関するものに限る。

c) 会社、パートナーシップ、または団体の取締役、受託者、役員、または管理者の選任または任命における紛争。

d) 会社、パートナーシップ、または団体が、すべての債務をカバーするのに十分な財産を所有しているが、それぞれの支払期日に債務を履行することが不可能になると予測される場合、または会社、パートナーシップ、または団体が負債をカバーするのに十分な資産を持っていないが、本法令に基づいて設立された管理委員会の管理下にある場合における、会社、パートナーシップ、または団体の支払停止状態の宣言の請願。

この条項、特に(b)号は、企業内紛争の範囲を定義する上で重要な役割を果たしています。最高裁判所は、管轄を判断するにあたり、単に当事者の地位や関係性だけでなく、紛争の本質も考慮すべきであるという方針を示しています。つまり、株主間のすべての紛争、あるいは会社と株主間のすべての紛争が、当然に企業内紛争となるわけではないということです。紛争の内容が企業の内部問題、株主としての権利、会社の経営に関わる場合に、企業内紛争とみなされます。

例えば、株主が会社に対して、個人的な債権債務関係に基づく損害賠償請求訴訟を提起した場合、それは企業内紛争とはみなされず、通常裁判所の管轄となります。しかし、株主が株主総会の決議の有効性を争ったり、取締役の責任を追及したりする場合、それは企業内紛争となり、SECの管轄となります。

ケースの概要:ガルシア対控訴院事件

アントニオ・ガルシア氏は、ダイネティックス社の主要株主兼社長でした。ダイネティックス社は半導体製造会社です。ガルシア氏は、フィリピン輸出信用保証公社(Philguarantee)を相手取り、損害賠償請求訴訟を地方裁判所に提起しました。ガルシア氏の主張は、Philguaranteeがダイネティックス社と子会社であるケマーク社の再建を約束したにもかかわらず、それを履行しなかったために、両社が経営破綻に陥り、自身が保証人として多額の債務を負担することになったというものでした。また、株価の下落や未実現利益の損失についても損害賠償を請求しました。

Philguaranteeは、本件が企業内紛争に該当し、SECの専属管轄であるとして、訴えを却下するよう申し立てました。地方裁判所は当初、Philguaranteeの申立てを認めませんでしたが、控訴院はPhilguaranteeの訴えを認め、地方裁判所の決定を覆しました。控訴院は、本件が企業内紛争に該当し、SECの管轄であると判断したのです。ガルシア氏はこれを不服として最高裁判所に上訴しました。

ガルシア氏は、自身が訴訟を提起したのは、ダイネティックス社の株主としてではなく、保証人としての個人的な資格であると主張しました。また、Philguaranteeは、ダイネティックス社の株主としてではなく、SMRA(和解および相互免責協定)の当事者として訴えられていると主張しました。しかし、最高裁判所は、ガルシア氏の訴えは、実質的には企業内紛争であり、SECの管轄に属すると判断しました。

最高裁判所の判断:実質的な企業内紛争

最高裁判所は、ガルシア氏の訴えの内容を詳細に検討した結果、本件が形式的には損害賠償請求訴訟の形をとっているものの、実質的には企業内紛争であると判断しました。裁判所は、以下の点を重視しました。

  • ガルシア氏が訴状において、自身をダイネティックス社の主要株主であると明記していること。
  • ガルシア氏が、株価の下落や未実現利益の損失について損害賠償を請求していること。これらの請求は、株主としての地位に基づいてのみ認められるものであること。
  • ガルシア氏がダイネティックス社およびケマーク社の債務の保証人となったのは、主要株主であったことが前提条件であったこと。
  • Philguaranteeがダイネティックス社の取締役会に代表者を送り込み、経営を支配していたこと。
  • 問題となった再建計画が、Philguaranteeがダイネティックス社の支配株主として行った企業行為であること。

裁判所は、ガルシア氏の訴えは、SMRAに基づく契約違反による損害賠償請求であるという形式的な主張に惑わされることなく、紛争の実質的な内容に着目しました。そして、紛争の根源が、株主であるガルシア氏とPhilguaranteeとの間の企業経営に関する対立にあると認定し、本件が企業内紛争に該当すると結論付けました。

最高裁判所は判決の中で、Viray v. CA事件を引用し、「P.D. 902-A第5条(b)に規定された関係が存在するからといって、自動的にSECが通常裁判所を排除して紛争の管轄権を持つわけではない」としながらも、「本件は、いかに巧妙に考案され、巧妙に偽装されたとしても、紛れもなく企業問題であり、したがって、本件紛争の管轄権は、通常裁判所ではなく、SECに属する」と述べました。

「私的回答者は、しかし、本件は、請願者がダイネティックスとケマークのリハビリテーションに関する合意を一方的に撤回したことによって生じた契約上の義務違反から生じる損害賠償請求訴訟に過ぎないと強く主張する。この主張は巧妙であるが、受け入れられない。損害賠償請求は、企業紛争の解決に依存するか、または密接に関連しているという事実は変わらない。例えば、精神的損害賠償および懲罰的損害賠償の請求は、「被告の完全な悪意と悪意に基づいており、被告の行為が、原告を含む上記法人およびその株主の権利および利益に明白に有害であることを十分に承知している…」に根拠がある。…明らかに、私的回答者が下級裁判所に請願者に対して提起した訴訟は、民法の用語やフレーズを用いた損害賠償請求訴訟の仮面をかぶった企業内訴訟であった。」

実務上の意義:企業内紛争における管轄の重要性

ガルシア対控訴院事件は、企業内紛争の管轄を判断する上で、形式的な訴訟類型にとらわれず、紛争の実質的な内容に着目することの重要性を改めて示しました。企業内紛争は、SECの専属管轄に属するため、通常裁判所に訴訟を提起しても、管轄違いとして却下される可能性があります。企業紛争が発生した場合、まず紛争が企業内紛争に該当するかどうかを慎重に検討し、適切な管轄機関に訴えを提起することが重要です。

企業内紛争に該当するかどうかの判断は、必ずしも容易ではありません。紛争の当事者の関係性、紛争の内容、請求の内容などを総合的に考慮する必要があります。判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

主な教訓

  • 企業内紛争は、SECの専属管轄に属する。
  • 企業内紛争かどうかは、紛争の形式的な訴訟類型ではなく、実質的な内容によって判断される。
  • 紛争が企業内紛争に該当するかどうか不明な場合は、専門家に相談する。
  • 管轄機関を誤ると、訴訟が無駄になる可能性があるため、注意が必要である。

よくある質問(FAQ)

Q1. 企業内紛争とは具体的にどのような紛争ですか?

A1. 企業内紛争とは、株主、会員、役員、会社などの間で生じる、企業の設立、運営、管理、株主の権利などに関する紛争です。具体的には、株主総会決議の有効性、取締役の責任、株式の譲渡、合併・買収などが該当します。

Q2. 株主間のすべての紛争が企業内紛争になるのですか?

A2. いいえ、そうではありません。株主間の紛争であっても、個人的な債権債務関係に基づく紛争や、単なる契約違反による損害賠償請求などは、企業内紛争とはみなされず、通常裁判所の管轄となります。

Q3. SECに訴訟を提起する場合、どのような手続きになりますか?

A3. SECへの訴訟提起の手続きは、SECの規則によって定められています。一般的には、申立書をSECに提出し、審理を経て、SECが裁定を下します。SECの裁定に不服がある場合は、控訴院に上訴することができます。

Q4. 企業内紛争を未然に防ぐためにはどうすれば良いですか?

A4. 企業内紛争を未然に防ぐためには、以下の点が重要です。

  • 透明性の高い企業経営を行うこと。
  • 株主間のコミュニケーションを密にすること。
  • 紛争解決のための社内ルールを整備すること。
  • 顧問弁護士と連携し、法的リスクを事前に回避すること。

Q5. もし企業内紛争に巻き込まれてしまったら、どうすれば良いですか?

A5. 企業内紛争に巻き込まれてしまった場合は、速やかに弁護士に相談し、適切な対応を検討することが重要です。弁護士は、紛争の状況を分析し、法的助言を提供し、訴訟手続きをサポートします。

企業内紛争でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。当事務所は、企業法務に精通した弁護士が、お客様の紛争解決を全力でサポートいたします。まずはお気軽にご連絡ください。

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Source: Supreme Court E-Library

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