二重起訴(リスペンデンティア)とは?先行訴訟と後行訴訟の関係性を理解する
[G.R. No. 131692, 1999年6月10日] フェリペ・ユリエンコ対控訴裁判所及びアドバンス・キャピタル・コーポレーション
はじめに
ビジネスの世界では、契約不履行や債権回収に関する訴訟は避けられないリスクです。しかし、同一の当事者間で類似の訴訟が複数提起されると、訴訟費用の増大や手続きの長期化を招き、企業経営に大きな負担となります。フィリピン法には、このような事態を避けるための「二重起訴(リスペンデンティア)」という原則が存在します。本稿では、最高裁判所の判例であるフェリペ・ユリエンコ対控訴裁判所事件を題材に、二重起訴の法理、特に「必須反訴」との関係性について解説します。この判例は、企業が訴訟戦略を立てる上で重要な示唆を与えてくれます。
法律の背景:リスペンデンティア、必須反訴、訴訟の分割、フォーラム・ショッピング
二重起訴(litis pendentia)とは、同一の当事者、同一の権利に基づいて、同一の救済を求める訴訟が二つ以上同時に係属している状態を指します。フィリピン民事訴訟規則は、このような重複訴訟を禁止しており、後から提起された訴訟は却下されるべきと定めています。これは、裁判所の資源の浪費を防ぎ、当事者の負担を軽減することを目的としています。
民事訴訟規則第6条第5項
訴えの却下事由 – 以下の事由のいずれかが訴状またはその添付書類から明白である場合、裁判所は職権または被告の申立てにより訴えを却下することができる。(e) 訴訟原因が既判力またはリスペンデンティアによって消滅している場合。
さらに、関連する概念として「必須反訴」があります。必須反訴とは、相手方の請求の原因となった取引または出来事に起因し、裁判所が管轄権を有する請求を指します。必須反訴は、本訴訟の中で提起しなければならず、別途訴訟を提起することは原則として許されません。もし必須反訴を提起せずに別途訴訟を提起した場合、それは訴訟の分割とみなされ、二重起訴の法理により却下される可能性があります。
民事訴訟規則第6条第7項
反訴 – 反訴は、相手方当事者に対する防御当事者の有する金銭またはその他の救済を求める請求とする。反訴は、相手方の請求の原因となった取引または出来事に起因する場合、またはそれに関連する場合、かつ、裁判所が管轄権を取得できない第三者の参加を必要としない場合、必須とする。
訴訟の分割とは、一つの訴訟原因を不当に分割して複数の訴訟を提起することを指し、フォーラム・ショッピングとは、有利な判決を得るために複数の裁判所に重複して訴訟を提起する不正な行為を指します。これらの概念は、いずれも訴訟の重複や濫用を防ぐための法理であり、二重起訴の原則と深く関連しています。
事件の経緯:ユリエンコ事件
フェリペ・ユリエンコ氏は、アドバンス・キャピタル・コーポレーション(ACC)から融資を受け、複数の約束手形を振り出しました。しかし、ユリエンコ氏が返済を怠ったため、ACCはユリエンコ氏を相手取り、2つの訴訟を提起しました。
1. マカティ地方裁判所事件(SP Civil Case No. 93-2521):ACCは、ユリエンコ氏の不動産抵当権の実行と、クラブ会員権や株式の売却を差し止める仮処分命令を求める訴訟を提起しました。この訴訟は、約束手形315、317、318に関連する債務を対象としていました。
2. ケソン市地方裁判所事件(Civil Case No. Q-95-23691):ACCは、ユリエンコ氏に対し、約束手形56、57、59、60に基づく30,631,162.19ペソの支払いを求める訴訟を提起しました。これは、マカティ事件とは別の約束手形に基づく債権回収訴訟でした。
ユリエンコ氏は、ケソン市事件の却下を求め、マカティ事件とケソン市事件は同一の当事者と事実関係に基づいているため、ケソン市事件は二重起訴に該当すると主張しました。また、ACCの請求はマカティ事件における必須反訴として提起されるべきであり、訴訟の分割に該当するとも主張しました。
第一審のケソン市地方裁判所は、ユリエンコ氏の却下申立てを認めませんでした。控訴裁判所も第一審判決を支持し、ユリエンコ氏の上訴を棄却しました。そこで、ユリエンコ氏は最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所は、控訴裁判所の判断を支持し、ユリエンコ氏の上訴を棄却しました。最高裁判所は、以下の理由から、二つの訴訟は二重起訴に該当しないと判断しました。
「マカティ地方裁判所事件は、本質的に差止命令訴訟、すなわち禁止を求める申立てである。他方、ケソン市事件は、通常の金銭支払請求訴訟である。前訴訟において、ユリエンコは、ACCに対する未払い債務の弁済に充当されるであろう自身の財産の処分および/または売却を禁じる、または差し止めることを本質的に求めている。具体的には、ユリエンコは、(1)自身の金銭債務を担保するために作成した不動産抵当権の実行、(2)既に実行された抵当権の場合における売却証明書の発行、および(3)ACCにおける自身の特定のクラブ会員権証書および株式の売却を阻止しようと試みている。約束手形もその訴訟に関与しているが、それらは約束手形番号315、317および318として具体的に特定されており、不動産抵当権によって密接に関連付けられているか、または担保されている。ケソン市事件において、ACCは単にユリエンコに対し、特定の、しかし無担保の約束手形番号56、57、59および60によってカバーされる未払い金銭債務の回収を求めている。言うまでもなく、それらは最初の訴訟の対象である約束手形ではない。また、それらは差止命令訴訟における約束手形および訴訟原因と実質的に、密接に、合理的に関連しておらず、あるいは遠隔的にさえ関連していない。簡単に言えば、両方の訴訟における約束手形は異なり、互いに関連していない。」
最高裁判所は、二つの訴訟の訴訟原因、争点、必要な証拠が異なり、論理的な関連性もないと判断しました。したがって、ケソン市事件はマカティ事件における必須反訴として提起されるべきではなく、訴訟の分割やフォーラム・ショッピングにも該当しないと結論付けました。
実務上の教訓:企業が訴訟に巻き込まれた際に取るべき対応
ユリエンコ事件は、企業が訴訟に巻き込まれた際に、二重起訴や必須反訴の法理を理解し、適切な訴訟戦略を立てることの重要性を示唆しています。本判決から得られる実務上の教訓は以下の通りです。
- 訴訟提起前に先行訴訟の有無を確認する:訴訟を提起する前に、同一の当事者間で類似の訴訟が既に係属していないかを確認することが重要です。
- 必須反訴の可能性を検討する:相手方から訴訟を提起された場合、自身の請求が必須反訴に該当するかどうかを検討し、該当する場合は本訴訟の中で反訴として提起する必要があります。
- 訴訟原因の同一性を慎重に判断する:二重起訴に該当するか否かは、訴訟原因、争点、必要な証拠などを総合的に考慮して判断されます。不明な場合は、弁護士に相談することが不可欠です。
- 適切な裁判所を選択する:複数の裁判所に訴訟を提起することは、フォーラム・ショッピングとみなされるリスクがあります。訴訟を提起する裁判所は、管轄権や便宜性などを考慮して慎重に選択する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 二重起訴(リスペンデンティア)が成立するとどうなりますか?
A1. 二重起訴が成立した場合、後から提起された訴訟は却下されます。これにより、訴訟の重複や裁判所の資源の浪費を防ぐことができます。
Q2. 必須反訴を提起しなかった場合、後から別途訴訟を提起できますか?
A2. 原則として、必須反訴を提起せずに別途訴訟を提起することは許されません。必須反訴は、本訴訟の中で必ず提起する必要があります。
Q3. 訴訟の分割とみなされるとどうなりますか?
A3. 訴訟の分割とみなされた場合、後から提起された訴訟は二重起訴として却下される可能性があります。
Q4. フォーラム・ショッピングは違法ですか?
A4. フォーラム・ショッピングは、裁判制度の濫用とみなされ、違法行為として非難される可能性があります。裁判所は、フォーラム・ショッピングを目的とした訴訟を却下することがあります。
Q5. 二重起訴かどうか判断に迷う場合はどうすればよいですか?
A5. 二重起訴かどうか判断に迷う場合は、専門の弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は、訴訟の状況を詳細に分析し、適切なアドバイスを提供してくれます。
Q6. 日本企業がフィリピンで訴訟を起こされた場合、どのような点に注意すべきですか?
A6. 日本企業がフィリピンで訴訟を起こされた場合、フィリピンの訴訟制度や法理、特に二重起訴や必須反訴の原則を理解しておくことが重要です。また、現地の法律事務所と連携し、適切な訴訟戦略を立てる必要があります。
Q7. ASG Lawパートナーズは、二重起訴に関する相談に対応していますか?
A7. はい、ASG Lawパートナーズは、二重起訴に関するご相談を承っております。当事務所は、フィリピン法に精通した弁護士が在籍しており、二重起訴に関する豊富な経験と知識を有しています。訴訟戦略、訴訟対応、和解交渉など、お客様の状況に応じた最適なリーガルサービスを提供いたします。まずはお気軽にご相談ください。
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Source: Supreme Court E-Library
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